「ビスケ、あなたにのことを頼むわ」

アサヒがそう言うと、ビスケは驚きのあまり目を見開いて固まってしまった。

「もちろん、ただでとは言わないわ。正式な依頼として、1ヶ月に10億でどうかしら?」

「.........」

「あら、まだ足りないの?それじゃあ...」

固まって動かないのを、金額が少ないからだと思ったアサヒの言葉を、慌ててビスケは遮った。

「チョ、チョット待ちなさいよ!何であたしにそんなこと頼むんだわさ!あたしだって他の依頼があるのよ!」

「何も今すぐに、何て言ってないじゃない」

「だからって...」

「それに、あなたの仕事は確か、今年中に終わるでしょう?」

「そりゃ、そうだけど。何でいきなりそんなこと頼むのさ...別に、これからは街に一緒に行くようにするとか、いくらでも方法は...」

ビスケの言葉にアサヒは軽くため息をついて説明した。

「あなた、協会からの追加依頼を持ってきたって言ってたけれど、その内容は知ってる?」

「知らないわよ。届けに来ただけだし...」

「...私がこの森の保護をしていることは知っているでしょう。最近、この森に新しい鉱脈が発見されたの。だから今まで以上に警戒するようにって内容なの」

「へー、鉱脈がねェ...あれ?あんたの能力って、確か?」

「ええ、条件を満たした者しか入れない広範囲のシールドよ。制約と誓約は、シールドを張る強さによって、一定時間以上シールドの外には出られ無いこと」

「!!、今まで以上にシールドを強くするってことは!」

「そう、シールドの中からほとんど出れない。つまり、今まで以上に人との関わりが無くなると言うこと...」

がますますあんたのコピーになるってことでもあるわね」

導きだされた結論に二人は沈黙した。

「「.........」」

ビスケは腕を組んで考え込み、アサヒはただひたすらビスケの反応を待った。

しばらく考え込んでいたビスケが口を開く。

「いいわ。その依頼引き受けましょう。その代わり、あたしのやり方でやらせてもらうわよ」

この言葉を聞き、アサヒは安堵のため息をついた。

「ええ、構わないわ。あなたの実力と人間性は知っているつもりよ」

「あんた...相変わらず恥ずかしいことをさらりと言うわね...」








     第四話    話し合い 2










アサヒは裏庭で黙々と草むしりをしているを呼んだ。

ー、ちょっとこっちに来てちょうだい!」

「はい」

アサヒに呼ばれ、は手をタオルで拭きながらアサヒの下へ歩いてきた。

「依頼の話は終わったんですか?」

「そのことも含めて、あなたに話があるから...リビングに行きましょう」

「分かりました」

アサヒの後に続いてリビングに入ると、ソファーに真剣な顔をしてビスケが座っていた。

はアサヒにうながされてビスケの前に座り、アサヒはの後ろの壁に寄りかかった。

アサヒをちらっと見たあと、ビスケはに話し始めた。

、あんたに聞きたいことがあるから。正確に教えなさい」

「はい、分かりました」

ビスケの言葉に、は素直に返事を返した。

「まずひとつは、『あんた戦闘はどれ位できるか』。ふたつ目は、『あんたが人と同じように修行した場合、体力や腕力とかはどうなるのか』よ」

「戦闘に関しての知識は、ある程度もっています。しかし、実戦経験は、稼動実験の際に数度行った程度なので、普通の人間とほぼ変わらないと思います。

体力はプログラムによって限界値(リミット)が設定してあります。その他、身体能力に関しても同様です。

ですが、人と同じように修行を行うならば、(エネルギー消費が激しく)エネルギーが足りない状態、その他の身体能力値が現状の設定値では足りない状態と判断されるため、限界値が引き上げられます」

(つまり、鍛えれば鍛えるほど強くなり、しかも、上限が無いということね)

「では次に、人に近い状態を作るということに、ここは適しているかどうかは?」

「...個人(アサヒさん)を理解するならばともかく、一般的な『人』というカテゴリーを理解することは難しいと思います」

「あんたがアサヒのコピーになりつつあるということを理解しているということね...」

「はい」

アサヒはその質問にも表情を変えずに、の後姿をただじっと見つめている。

「...最後に、あんたはアサヒと一緒にいたいと思う?」

はい

...」

がためらいも無く肯定したために、アサヒは笑顔を浮かべての名前を呼んだ。

ビスケはの顔を見つめたまま、アサヒの反応を確認して、最後の質問をした。

、アサヒの仕事をどこまで理解してる?」

「1.この森の保護をしていること。

 2.この森の希少樹木を狙って来る密猟者の対処を行うこと。

 3.最近発見された鉱脈を密猟者及び開発業者から守ること」

「ん、そうね。ちなみに、密猟者の実力は分かる?」

「大抵の場合、アサヒさんにはかないませんが、私ならば数分のうちに処理するだけの実力を有していると考えられます」

「正確な判断ね」

「...私はアサヒさんの足手纏(あしでまと)いだということですね」

の言葉をビスケは迷うことなく肯定した。

「そうね」

ビスケ!

それを聞きとがめてアサヒは非難の声を上げるが、ビスケはそれを一言で一蹴した。

「アサヒ、まだ話の途中だわさ」

そう言われ、アサヒは黙るしか出来なかった。

黙り込んだアサヒを一瞥して、ビスケは先ほどアサヒから受けた依頼の内容を話し始めた。

、あんたを来年から預かることになったわ」

その言葉を聞いたは無表情であったが、目は不安を表すように揺れていた。

それに気付いたビスケは急いで続きを話した。

「勘違いしないで、ずっとアサヒから離れてるわけじゃないわさ。少なくとも、あんたが密猟者に負けない程度の実力が付いて、きちんと『人』を理解できれば、ずっとアサヒといられるわよ」

「本当ですかっ!?」

「「もちろん」」

2人同時に肯定されて、はふにゃっと安心しきった笑みを浮かべた。

アサヒはの隣へ移動し、の顔を覗き込みながら自分が思っていることを伝えた。

、私もビスケも、あなたに『あなた自身』を見つけてほしいのよ。私のコピーでも、ビスケのコピーでもない『あなた自身』を」

「私自身...ですか?」
                                        
「ええ、そうよ。自分自身が無かったら、自分の幸せが分からないでしょう?」

「幸せ...」

はアサヒの言葉を繰り返し理解しようと黙り込んだ。

その様子に微笑を浮かべながら、アサヒは続きを話し始めた。

「それにね、親は子どもの幸せを願うものなのよ」

「子ども?私がですか?」

「ええ、あなたは私の大切な子ども、大切な家族よ」

「家族...っ」

はアサヒを驚きを隠しきれない顔で見上げた。

そして、アサヒの顔を見つめながら、ゆっくりと自分の思ったことをアサヒに伝えた。

「あの...わたしは、アサヒさんと、ずっと、ずっと、一緒にいたいです......家族として」

「私もよ」

その言葉を聞きアサヒは本当にうれしそうに微笑んで答え、もアサヒのうれしそうな顔に笑みを深くする。

2人が微笑を浮かべあっていると、ビスケの方からかすかな音が聞こえてきた。

...ひっぐ...ずびっ...

「「?」」

不思議に思ってビスケの方を見ると、ビスケが滝のように涙を流し、嗚咽をこらえていた。

「あんた達、そういう話はあたしのいない所でしなさいよぉー」

...ひっく...えぐ...

「!、えっ!あ、あの、ビ、ビスケさん?」

「ビスケ...あなた相変わらずね」

泣いているビスケには慌て、アサヒは呆れたようにため息をついた。

「え?アサヒさん?」

慣れた様子のアサヒには困惑した視線を向けた。

、気にしなくて良いわよ。ビスケはちょっと涙もろいだけだから」

...ひっぐ...ひっく...

「...でも...」

「大丈夫よ。もう少ししたら泣き止むから」

...ひっく...ぢぃーん

「...、お茶ちょうだい」

「あ、はい」

はビスケのグラスにお茶を入れて手渡した。

「どうぞ」

「ありがと」

ビスケはお茶を飲んで息を整え、その様子を見て、は胸をなでおろした。

「ね、大丈夫だってでしょう?」

「はい。ビスケさん落ち着きましたか?」

「ええ、もう大丈夫だわよ」

落ち着いたビスケにアサヒはからかいの言葉をかけた。

「ふふっ、本当に相変わらずよね」

「相変わらず機械音痴のあんたに言われたくないわさ」

「「.........うふふふふふふふ...」」

(なんだか怖いような?...でも、何が?)

アサヒのからかいに、すぐにビスケが嫌味で返すと、二人はお互いに睨み合って笑い声を上げた。

しばらく不気味に笑いあっていたが、いい加減に飽きたのかビスケが思い出したようにバックの中から箱を取り出した。

「あっ、そうだ。はい、これ」

そう言って、アサヒに箱を放り投げて渡した。

「?、何よこれ?」

「新しい携帯電話。最新機種だわよ」

「ちょっと、こんなものいらないわよ!」

中身を知ったアサヒがすぐにビスケに付き返そうとした。

「あんたがいらないんなら、にあげれば良いじゃない。そうすれば、ちゃんと連絡が取れるんだし」

「...それもそうか。、はいこれ」

アサヒが箱を開けて中を確認すると、黒いシンプルな携帯が入っていた。

それを嫌そうにつまみ上げると、先ほどビスケがしたように放り投げてに渡した。

はその携帯を手に持って、液晶画面を眺めた。

「これにホームコードが書いてあるわさ。それと、電脳ページもめくれるようになってるから。電脳コードは...」

...ピピピコピコピピピピピピヨピヨピヨピヨピ...

ビスケの説明の途中で、の持っていた携帯が勝手に(途中で可笑しな音も混ざったが)動き始める。

「......」

「?、何ですか?」

理由に気付いたアサヒがに話しかけると、携帯の操作音が止まった。

「せめて、携帯を操作してる振りをしてちょうだい。お願いだから」

「...そうね。その方が良いわ」

勝手に携帯が動いた理由を理解したビスケも、アサヒに賛成した。








あとがき

H×H 第四話終了です。
うちのビスケさんはかなり涙もろいです。
ついでにアサヒさんは親ばかです。

ここまで読んでくださって、ありがとうございました!

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