「5時に起床して1時間『点』と並行して念を起こす練習。それが終わったら7時までエド君はリハビリ、アル君は歩行訓練。7時になったら朝食と休憩合わせて1時間半。次が10時まで同様にリハビリと歩行訓練。その後また念を起こすことに集中。12時に昼食。このときにメンテナンスに1時間をとるから、休憩を含めて2時まで。その後またリハビリと歩行訓練を6時まで。6時から8時までが夕食と入浴、アル君はメンテナンス。8時から10時までもう1度念を起こすことに集中。その後就寝。ここまでで何か分からないことはありますか?」

1日のスケジュールを組み立てて言ったに、聞いていた2人はしばらくの間呆気にとられた。

言われた内容を頭の中で反芻したエドワードが疑問を口にした。

「研究の時間は?」

「しばらくありませんよ」

「何で!?」

「今優先すべきなのはきちんと動けるようになることです。あれもこれもと詰め込んでいては、いつまでたってもリハビリが終わりませんよ」

「うっ」

の言ったことが正論だったため、エドワードは言葉に詰まった。

「それじゃあ、僕の歩行訓練ていうのは?」

「今のアル君の身体だと、どうしても歩くときに金属音が響いてしまいます。ある程度仕方ありませんが、普段歩いているくらいの音に抑えるようにしないと」

「どうして?」

「音というのも重要な情報です。特に危険な状況になった場合、自分が立てた音で相手に気づかれたり、自分の出した音で撃鉄(げきてつ)の音を聞き逃したり、ということも考えられます」

「う〜ん、でもどうしても腕を曲げたりすると音がするんだけど」

「その辺りはメンテナンスでカバーしましょう。念を覚えたあとで、そういう能力にしてもいいですし」

「そういう能力って?」

「それはもう少ししてからですね。今は念を起こすことが先です」

細かい念の説明はせずに会話の軌道を戻した。

「とりあえず、俺はリハビリと念を起こすことに集中すればいいんだな?」

「それと機械鎧(オートメイル)のメンテナンスも覚えてください」

「僕も自分の身体のメンテナンスを覚えたほうがいい?」

「ええ。ただしアル君の場合は体の中は自分で出来ないでしょうから、私がします。当面はこの予定で構いませんね?」

「「うん」」

2人がそろって頷いたのを確認すると、はピナコたちにリハビリや食事の時間を伝えに行った。










   第六話     眠れぬ夜










「アル君?」

「あ、...」

皆が寝静まった真夜中に起き出したは、廊下に座りぼんやりと外を眺めるアルフォンスを見つけた。

「一緒に行きますか?」

「え?」

「ちょっと外に行こうかと思っていたんです」

「...眠くないの?」

「もともと寝るのは1ヵ月に1度の情報整理の時で充分ですから」

「そうなの?」

「ええ。ですから、暇ならちょっと外に行きませんか?」

「...うん。行くよ」

少し迷ったようだが、アルフォンスはの言葉に頷いた。

がアルフォンスを誘ったのは、ここしばらく機械鎧(オートメイル)の手術をしたエドワードの看病で一緒にいなかったからだ。

それともう1つ、眠りが必要なくなったアルフォンスが精神的に不安定だとウィンリィに聞いていたこともある。

外に出ると月が大分細くなったために、星がよく見えた。

「アル君、眠れないのは怖いですか?」

「っ!!.........うん」

の問いに思わず息をのんだが、まっすぐに見上げてくる視線に負けて素直に頷いた。

「夜ってこんなに長かったんだなって思ったんだ。ついこの前まで、夜はが入れてくれた物を飲みながら、兄さんと錬金術や将来の夢を話して、話疲れたらたっぷり寝て、幸せな夢を見て...一晩がとっても短かったのに...今はっ」

グッと堪えるように握る拳に気づくと、はそっとアルフォンスの手を取って開かせた。

「私にも不安がないと言えば嘘になります」

「......」

「でも、今出来ることがあることと、あなたたちが生きていることが私の希望ですから」

「...うん」

「言ったでしょう?3人で元に戻るんだって」

「うん」

「アル君だけじゃなくて、私もエド君も頑張るんです。何年かかろうと元に戻る方法を見つけ出します」

「うんっ」

「元に戻ったら食べきれないくらいの料理とお菓子でお祝いしましょうね」

「...絶対だよ?」

「もちろん」

笑うことのできない顔だったけれど、アルフォンスは自分の顔が笑っているような気がしていた。

そんなふうに感じたアルフォンスに気づいたのか、もさらに目を細めて笑う。

これから戻るまでの夜を、取り留めもない話で明かすことになるのを、何となく2人は予想していた。






そういう経緯で徹夜となった2人だが、人の身体とは違ってクマが出来ることもなく朝を迎えた。

「兄さん、朝だよ」

「う...もうか?」

「うん。が水で冷やしたタオルを用意してくれたから、これで拭いて目を覚ましなよ」

「あぁ、ありがと」

左手でごしごしと顔を拭くと、やっとエドワードの目が覚めたらしい。

「うしっ!目が覚めた」

「それは何よりです」

「「」」

「アル君には先に言いましたけど、おはようございますエド君」

「おはよう」

「さて、それでは早速念を起こす修行を始めましょう。今まで『点』をきちんとやってきましたから、1ヶ月くらいで念を起こせると思いますよ」

「...いや、1週間だ」

きっぱりと言い切ったエドワードに、2人が顔を見合わせて苦笑した。

「やれやれ、言い出したら聞かないんですから」

「それじゃあ僕も1週間で出来るように頑張るよ」

「競走だな」

「負けないからね」

その後、楽しそうに話す2人をしばらく微笑ましく眺めると、軽く手をたたいて修行に集中させたの姿があったとか。










あとがき

鋼の錬金術師第六話終了です。

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