太陽の光が降り注ぐ庭で、は洗濯し終わったシ−ツを干している。

 どたたたたたたたたたたたたたたたたたたた...

「「うわーーーーー!!!」」

が3枚目のシーツを干しているとき、家の中から大量の本が崩れる音と子ども達の叫び声が聞こえた。

それには多少呆れた目を家の方に向けつつ、ため息をつく。

やれやれと言った感じで首をすくめ、最後のシーツを干すと洗濯籠を抱えて家の中へと入っていった。



は洗濯籠をテーブルの上へ置くと、3人が揃っているであろう2階へと向かった。

2階へと上がると、2人を叱るトリシャの声が聞こえてくる。

「まったく、こんなに散らかして。前にも言ったでしょう?本をとるときは1冊ずつ、床に何冊も積み重ねちゃダメだって」

「「...はい」」

はふたりの元気の無い声に苦笑しながら、部屋の中へと入っていく。

「トリシャさん、もしかしなくても『また』ですか?」

君。そうなのよ。『また』なの」

「「........」」

2人の話にうなだれるエドとアルに苦笑しつつ、は2人の前にしゃがみこんだ。

「エド君、アル君、何故トリシャさんが2人を叱ったか分かりますか?」

「...俺たちが部屋を散らかしたから」

「...前に言ったことを守らなかったから」

は2人の言葉に頷きながらも話を続ける。

「ええ、それもあります。でも、叱るということは、心配しているということでもあるんですよ」

「「心配?」」

2人は顔を上げてと目をあわせ、よく分からないと言うように首を傾げる。

「そうです。もし、2人が勢いよく落ちてきた本にあたったら、積み重なっている本につまずいて転んでしまったら、ケガをするのはあなた達なんですよ?」

「「あっ!」」

「2人を叱るということは、それだけトリシャさんに心配をかけたと言うことです。どうすればいいか分かりますよね?」

「「うん」」

が確認するように言うと、2人はからトリシャへと顔の向きを変える。

「「心配かけて、ごめんなさい」」

ぺこりと頭を下げて、恐る恐ると顔を上げる二人にトリシャは苦笑した。

「分かったのなら、もう良いわ。今度から気をつけなさいね」

「「うん」」

トリシャの言葉に、2人は嬉しそうに笑いながら大きく頷く。

その様子を見ていたも、微笑みながら立ち上がった。

「私とエド君とアル君でここを片付けますから、トリシャさんは昼食の準備をお願いできますか?」

「あら、もうそんな時間なのね。2人とも、君にばかり頼らないでちゃんと片付けるのよ」

「分かってるって」

「大丈夫だよ」

「それならいいんだけど。それじゃあ、君お願いね」

「はい」

トリシャが部屋を出てパタンとドアを閉めたあと、が2人のほうを見るとふてくされた顔をしていた。

「ちぇっ、信用ないの」

「仕方ないよ、の方が年上だし」

「年なんか関係ないだろ?」

ふてくされて文句を言う2人に、は笑いをこらえつつも話しかけた。

「ほらほら、いつまでも文句言ってないで片付けましょう。そうしないと、お昼ご飯に間に合いませんよ?」

「げっ、それはヤダ!」

「早く片付けようよ!」

「はい、はい。2人は本棚の下のほうをお願いしますね。私は上の方に入れていきますから」

そう言っては、分厚く大きい本を10冊ほど軽々と抱えて移動すると、次々と本をしまっていく。

その様子をエドワードとアルフォンスはポカンと口を開けながら見つめた。

いつまで経っても動かずにを見つめる2人に、は首を傾げた。

「?、2人とも、早くしないと本当にご飯に遅れますよ?」

「あっ、今やる!」

「う、うん」

「?」

あわてて片付け始める二人を不思議に思いながらも、は残りの本をしまっていった。








   第二話    師匠になる日








「ご飯が出来たわよー」

「「「はーい」」」

トリシャの声に、最後の本を片付けながら3人揃って返事をする。

は片付け忘れている本が無いか確認してから、2人に話しかけた。

「ちょうど片付けも終わりましたし、行きましょうか。あ、ちゃんと手を洗ってくださいね」

「「うん」」

がドアを開けると、よほどお腹がすいていたのか2人は我先にと駆け出した。

「2人とも、転ばないでくださいね」

「「だいじょーぶー」」

2人はを振り返ることなく返事をすると、ドタドタと階段を下りていった。

それには苦笑すると、自分も1階へと下りるために歩き出した。




が手を洗ってダイニングへ入ると、3人は既にテーブルの前に座って待っていた。

「お待たせしましたか?」

「大丈夫よ、ほんの少しだから。それじゃあ、食べましょうか」

「「「「いただきます」」」」

エドワードとアルフォンスは言ったのとほぼ同時に食べ始める。

とトリシャはそれに少し驚きつつも、自分達も食べ始めた。

「2人ともちゃんと噛んで食べなきゃダメよ」

「そうですよ。ちゃんと噛んで食べないと、栄養をきちんと取れませんよ。ほら、ちゃんと30回噛んで」

「えー、わざわざ数えてられないよ」

「そうだよ」

「栄養が取れないと身長が伸びませんよ?」

「ちゃんと噛む!」

「...兄ちゃん」

の言葉にすぐに反応したエドワードに、アルフォンスが呆れ、トリシャが苦笑する。

もぐもぐと回数を数えながら食べていたエドワードが、先ほどのことを思い出し、ゴクリと口の中のものを飲み込んでからに話しかけた。

「なあ、ちゃんと噛んで食べたら、さっきのみたいに力が強くなれるのか?」

「あっ、そう言えば!」

「?、さっきって?」

「さっき片付けるときに、がこれくらいの厚さの本を10冊くらい1度に持ち上げたんだ」

「うん。しかも、軽々と」

少し興奮して話す2人に苦笑しながら、は話し始めた。

「そうですね...エド君たちも、重いものを持ち上げるときは、口を開けたまま持ち上げたりしないでしょう?自然と口を閉じて持ち上げますよね」

「そう言われてみると...」

「確かにそうかも...」

「力を入れるときは、奥歯を噛み締めるんですよ。ですから、ちゃんと噛んで顎の筋肉を鍛えれば、普段出せる力は多くなりますよ」

「「へぇー」」

頷く二人の横で、トリシャは首を傾げた。

「あら、でも君は、何か格闘術をやってたんじゃなかったかしら?」

「やってましたよ。ピナコさんにお聞きしたんですか?」

「ええ、他の人の何倍も働くから、心配になって聞いてみたら『格闘術とかのおかげで体力はありますから』って言ってたって」

「じゃあさ、その格闘術って言うのやったらみたく強くなるのか!?」

「兄ちゃん?」「エド?」

勢いよく尋ねるエドワードにアルフォンスとトリシャが疑問の声をあげる。

「エド君は、錬金術を勉強してるんじゃないんですか?」

「そうだけどさ。強くなった方が、お母さんを守れるじゃん!」

「あ!そっか!」

エドワードの言葉にアルフォンスが嬉しそうに同意し、とトリシャが顔を見合わせる。

「なあ、錬金術の勉強もするけど、たまにで良いからその格闘術も教えてよ!」

「ボクもー!」

「2人とも、君だって働いてるのよ?」

「時々で良いんだって!」

「うん、大変でもがんばるから!」

一生懸命話しかけてくる2人に、思わず笑みをうかべてトリシャを見る。

「トリシャさん、私はかまいませんから。それに、2人ともトリシャさんが大好きだからやろうとしてる訳ですし」

「...もう、言い出したら聞かないんだから」

「「じゃあ!!」」

「ただし、君に迷惑をかけすぎちゃダメよ?」

「「うん!」」

嬉しそうに頷く2人に、トリシャは苦笑する。

は嬉しそうに笑う2人に多少申し訳なく思いながらも、ちゃんと言わなければならないことを口にした。

「ただし、2人には格闘術はまだ早いので、もう少し体が成長してからです」

「「ええーーー!!!」」

予想通りの反応に苦笑しつつも、二人が文句を言う前に話を続ける。

「2人はまだ成長期前ですから、急激な運動をすると体を痛めてしまうんです。ですからしばらくは、少しずつ体力をつけていくことと心を鍛えることをやっていきましょう」

「「...はーい」」

の説明に納得しつつも、多少ふてくされて返事をする2人にとトリシャは苦笑した。

、心を鍛えるってどういうこと?」

「格闘技というのは、体だけでなく心も鍛えるものなんですよ。たとえば、一見して敵いそうに無い相手と戦うときに、敵わないと思ってすぐに諦めるのか、敵わなくても相手から何か学び取ろうとするのか。どうするのかを決めるのは自分ですからね」

「ふーん」

「具体的にどういう風に鍛えるんだ?」

「一応心を鍛えるのに『燃』というものがあります」

「「ネン?」」

「そうです。具体的な方法は......ご飯の後にしましょう」

「「ええー」」

話を突然打ち切られて、2人は不満の声をあげる。

はそれを気にすることなく、二人の前に置いてある皿を指差す。

「話に夢中で、さっきから食べてないじゃないですか。ちゃんと食べ終わるまで、話はお預けです」

「「はーい」」

「ちゃんと噛んで食べてくださいね?」

「はい、はーい」







あとがき

鋼の錬金術師第二話終了です。
一応ここでの設定を少し説明します。
さんは、エルリック家に居候中です。
ピナコさんやリゼンブールの人達の仕事を手伝ったりしてます。

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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