小雨の降る夜の街をは急ぎ足で歩いていた。

本来ならデータを渡すだけの仕事なのだが、依頼人と一緒に昔馴染みの知人(けして友人ではない)がいたために時間がかかってしまった。

(なぜあの人達は、こうも昔の話をしたがるのでしょうか。

 あの頃はかわいかっただの、あの頃はもっと素直だったのにとか...

 確かに昔は知らないことばかりでしたけれど)

とりとめも無く、先ほどまで話していたことを考えながら進む.

雨の降る夜に外出しようとする人が少なく、裏通りに近いためか、通りは閑散とし、雨の降る音との靴音だけが響いている。

しばらく経つと、小雨がいよいよ本降りに成りだした。

は顔をしかめると、『強制転移<ムーヴ ムーヴ>』を使うために裏通りへと向かった。




円を使って人のいない場所を探しながら裏通りを進んでいく。

情報屋をやっているからこそ、他人に渡る情報は自分でコントロールしなければならない。

それにこの念能力を使うときは、情報漏れのリスクは最小限に抑えた方が良いからである。

しばらく歩くと、通りの奥に廃ビルが見えた。

は円とセンサーを使って人がいないことを確かめ、中へと入っていった。

廃ビルに入ると、ビルの窓から見えない死角へと移動し、『強制転移<ムーヴ ムーヴ>』の座標を設定し跳ぼうとした。

「...!?

しかし、能力を発動させた瞬間、外側から急激に何らかエネルギーが押し寄せてきた。

(!?なんだこれは!まずい、コントロールできない!!!)

は何とかコントロールしようと自身を抱きしめるような形でうずくまる。

暴走するエネルギーが球体を作り出しの周りを取り囲む。

「......うっ...くっ......」

エネルギーの圧力による痛みでの口からうめき声が漏れ出す。

それでも懸命に耐えていたに、さらにエネルギーが加わっていく。

−−−−−−−−−−−ッ!!!!!!!!!!!

声が出せないほどの激痛に、の意識がフッと途切れた。

その瞬間を取り囲んでいた球体が、廃ビルを包み込むほど大きくなり、廃ビルや地面、音さえも吸い込んで消失した。

雨の降るなかその場所に残ったのは、大きくえぐれた地面だけであった。









      第一話    雨降る夜に...









  ......サー......サー......サー......サー......


「ン......」

(...雨の音?ああ、そうだ...今日の帰りに急に降り出したんでしたね。

 小雨程度だったからある程度歩いてて、そのうち本降りになってきたから、さっさと帰ろうと裏通りに行って......!!)

 
 ガバッ!


ベットに慌てて身を起こすと、自分の体を確かめた。

(体の表面に破損は無し。内部の方も問題ないようですけど、服が変わっていますね)

は自分の状態を確認した後、寝かされていた部屋を眺め回した。

(病院という感じではありませんね。民家の客室といったところでしょうか。

 しかし、あの地域でこういう構造の家は無かったはずですけど...

 ん?あの本の背表紙は英語...ですよね?

 あまり考えたくない可能性ですけど、もしかして...)

が今の状況を考えていると、


...ぱたぱたぱたぱたぱたぱた...

...タッタッタッタッタ...


部屋の外の方から軽い感じの足音が聞こえてきた。

はすぐさまセンサーを起動させて部屋の外の様子を窺う。

(熱源の大きさ、足音から考えて幼児が2人でしょうね)


 ぱた

 タン

足音が部屋のドアの前で止まる。

カチャッと音を立ててドアがゆっくりと開いていく。

30cmほど開いた隙間からヒョコッと二つの頭が部屋の中を覗きこむ。

「「アッ!」」

「...」


 バタン!


...ドタドタドタドタ...

...バタバタバタバタ...


「「おかーさーん!おきたよー!」」

「...」

起き上がっていたと目が合うと、子ども達は驚きの声を上げ、乱暴にドアを閉めると走って行ってしまった。

(声から察するに母親を呼びに言ったのでしょう。少し待てば情報を手に入れることができそうそうです。

 しかし、小さい子どもというのはああいうものなのでしょうか?そういえば、あれくらいの子どもを観察したことは無かったような...
 
 調査依頼のあった子や身近にいる子どもは、少なくとも10歳以上だったし、やけに大人びてましたからねぇ。)

少々思考が反れたとき、ドアをノックする音が聞こえた。

「はい」

ドアを開けて先ほどの子ども達と、2人の母親らしき女性が部屋に入ってきた。

「よかった、目が覚めたのね。とても体が冷たかったから心配したのよ。」

「そうそう、息してなかったら死体かと思うとこだったぜ。な?」

「うん。冷たくってびっくりしたよね」

「...そうなんですか...」

(アサヒさんに言われたことを参考にして、自己プログラム書き換えておいて本当によかった!

 そうじゃなかったら、今頃死体が生き返ったって大騒ぎになるところでした。

 ありがとう、アサヒさん!帰ったら、希少植物の種の情報を差し上げます!)

内心でアサヒさんにお礼を言いつつ、母親と子ども達と話をする。

「どうやら助けていただいたようで、ありがとうございます。

 私は、=と申します。

 申し訳ないのですが、助けていただいたときの状況をお教え願えないでしょうか?

 どうも倒れたあたりの記憶があいまいになっておりまして...」

「あら、そんなに丁寧に話さなくても大丈夫よ。具合が悪いときに意識が朦朧としやすいのは知っているから。

 呼び方は、君でいいかしら?」

「はい」

ニコニコと笑いながら話す母親に、も穏やかに微笑みながら受け答えをした。

君、私はトリシャ。トリシャ・エルリックよ。この子達は、息子のエドワ−ドとアルフォンスよ」

「俺を呼ぶときはエドでいいからな!」

「僕もアルでいいよ」

「はい、よろしくお願いします。トリシャさん、エド君、アル君」

「「「よろしく(ね)(な)(お願いします)」」」 






あとがき
鋼の錬金術師第一話です。
ここまで読んでくれて、ありがとうございました。



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