悟空とが走るスピードにあわせて、ブルマがバイクを走らせておよそ2時間ほど経った頃、は少し先に待ち伏せされていることに気がついた。

(数は1人だけのようですし、あまり強くもありませんね。放っておいても大丈夫でしょう)

はあっさりとそう判断して、悟空とブルマに待ち伏せしている者のことを知らせずに走っていた。

そうしてしばらく進むと、道の真ん中に青龍刀をかまえた大きな(くま)人が立ちはだかっていた。

「おう!!待ちな!」

「え?」

「ははー、ボウズ!!その海ガメ、オレ様によこさんか?大好物なんだよなー」

「ひ、ひええ...どっ、どうぞっ!!!さ、さあっ、孫くんカメを差し上げて!!!」

「べー」

「ブルマさんは随分と小心者ですねぇ」

熊の言葉に悟空は舌を出し、はブルマを呆れたように見る。

「ほほう、カメを置いていけば命を助けてやると言ってるんだが...まさか逆らおうってんじゃないだろ?」

「バ、バカッ!!!そんなカメぐらいあげなさいよッ!!!あんたら何考えてんのっ!!!」

「お前なんかにやらないよーだ」

「なるほど...自分を食って欲しいのか...そういうことならガキからいただこうか...」

熊が青龍刀を振り上げている間に、悟空はカメを地面におろす。

カメは慌ててバタバタとと悟空から離れていく。

「そりゃ!!!」


  ギンッ


熊の振り下ろした青龍刀を悟空は跳んでかわし、は体を少し後ろに反らしてよけた。

「ぐへへへ......すばしっこいじゃねえか。よくオレ様の剣をかわしたな」

「生憎、そんなに遅い剣に斬られるほど鈍ってはいませんよ。悟空、1人で倒しますか?」

「おう!」

「...なめやがって......でえっ!!!」

悟空は熊が横に薙いだ青龍刀の上に乗ると、熊の鼻先に跳び移って構えをとる。

「ジャーン拳!!!グーッ!!!!!『ベぎ』」

悟空が熊の鼻先から跳び下りると、悟空の殴ったところから血を吹き出しながら熊が倒れた。

「さあ、行こう、行こう!」

「ちゃんと急所に一撃で倒しましたね。よく出来ました」

「へへへっ!」

「す...す...すごい...」

「...あ...あんなに強いの?...あいつ...」

「オラよりと死んだじいちゃんの方が強ぇぞ!」

「......あんたより?」

「まあ、その辺は年の功ですよ」

にっこりと笑みを浮かべるの横で、寄ってきたカメを悟空がじっと見つめた。

「お前、ホントにおいしいのかなあ...」

「えっ!?おっ、おいしい訳ありませんよっ!!!め、めちゃくちゃ不味いって評判で!!!あははは...!!」

「そうだな。あんまり旨そうじゃないもんな」

「ほっ」

(調理法次第だとか、美容に良い漢方薬として扱われてるって...言わない方が良いですよねぇ)

はカメを担いでいる悟空と、バイクに跨っているブルマを見て苦笑した。






それからさらに2時間ほど経ち、3人と1匹は海岸までたどり着いた。

「や、やりました!!海ですよ!!!誰が何と言おうと、海ですよー!!!」

「当たり前じゃない」

「すっ、すげえー!!な、なんちゅう広い川だ!!!」

「そう言えば、悟空は海を見るの初めてでしたね。海は全ての川の水が流れ込むところですから、とても広いんですよ」

「へぇー...お前広いとこに住んでるんだなあ」

「ホ、ホントに助かりました!!!ありがとうございました!!ありがとうございました!!」

「無事に帰って来れて、良かったですね」

何度も頭を下げるカメに、と悟空が笑顔を向ける。

「あの、ちょっとそこでお待ち下さい。ぜひ、お礼をしたいもんですから」

「お礼?」

「別に気にしなくても良いですよ?」

「玉手箱じゃないでしょうね」

カメがそのまま沖へと行ってしまったため、3人は砂浜で待つことになった。

「うげっ!!か、かれーっ!何だこの水は!!」

「悟空、海の水は大量の塩が溶けてるんですから、飲むのは無理ですよ」

「うーん、どうせこうなるんなら水着持ってくりゃよかった」

そのまま30分ほど経ったとき、ブルマが沖に何かがいるのに気づいた。

「何かしら、あれ...」

「え?...さっきのカメだけど、上に誰か乗ってるなあ」

「そうですね」

「あんた達、よくあんなのが見えるわね」

さらに5分ほど経ち、人を乗せたカメが砂浜にたどり着いた。

「ハロー!」

「お待たせしました!!」

「よっこらしょっと」

「...ハデなじいさん」

「まあこの気候なら、アロハシャツの方がすごしやすいでしょうしね」

カメから降り立った老人にブルマが率直な感想呟くと、はそれにささやかなフォローを入れた。









    第七話    空飛ぶ雲









「カメを助けてくれたそうじゃの」

「じいちゃん、なにもんだ?」

悟空の問いに、老人は少し表情を引き締め名乗る。

「わしは亀仙人じゃ」

「カメ仙人?」

「助けてくれたのは誰じゃ?」

「お坊っちゃんと青年です」

「私はほとんど何もしてませんよ」

「いえいえ、ちゃんと善くしてくださいました!」

「そうか、そうか、ご苦労さんじゃったな。ではお礼に、素敵なプレゼントをあげてしまおう」

「プレゼント?」

「それほど気を使っていただかなくても...」

悟空の疑問との遠慮の声を聞き流して、亀仙人が海へ向かって高々と杖を上げる。

「来いっ!不死鳥よ!!!」

「.........」

「.........?」

「.........」

「...何も来ないわね」

何も姿を現さないことに無言になった亀仙人に、海ガメが声をかける。

「あのー、不死鳥のやつは食中毒で死んだんじゃ...」

「そうか!!そう言えば、そうじゃったな...」

「不死鳥なのに死んだの?」

「ウーム、不死鳥を呼んで永遠の命をやろうと思ったんじゃが...」

(私の場合、もう既に不老不死みたいなもんなんですけど...)

「よし!では代わりにこいつを......来るんだっ!!!筋斗雲よーっ!!!

亀仙人の声と共に、遠くの方から黄色い雲がたちの元へ飛んできた。

「筋斗雲じゃ、これをお前にやろう」

「どうやって食うんだ?」

「ありがたい雲を食うなっ!!!」

「悟空、雲は基本的に水滴の集まりですから、お腹は膨れませんよ」

「...お前さんもズレとるのう...筋斗雲に乗れば、意のままに空を飛ぶことができるのじゃ!」

「でも、なんで亀仙人が雲を持ってるの?関係ないじゃない」

「カタイことは言いっこなしじゃ...」

「へーっ、空を飛べるのか!!」

「どういう仕組みなんでしょうね?」

「スゴイじゃろ!ただし、この筋斗雲は清い心を持っていないと乗ることは出来ん!つまり良い子でなくてはダメと言うことじゃ」

そこまで話すと亀仙人は筋斗雲へと近づいていった。

「どれ、わしが見本を見せてやろう」


  すぽっ   ぐきっ!


「あたたたっ、こっ、腰がっ!!!」

「だっ、大丈夫ですか!?」

「きゃははははっ!!!」

「ブルマさん、そんなに笑っては失礼ですよ」

「ど...どうしたんでしょう...」

「むむ〜、お、おかしい...」

「大丈夫ですか?」

筋斗雲をすり抜けて腰を打ってしまった亀仙人が立ち上がるのに、は手を貸し、分からない程度に気孔を使った。

「オラが乗ってみる!!」


   とん!


「あっ!!!」

「へ?」

「わーい、のれた、のれたーっ!!」

「乗れましたね...」

「はて?...ど、どういうことじゃろ?」

「それっ!!」

    ひゅーーーーーーーーーーーー...ん

「うわぁーっ!!!やっほーーーーっ!!」

悟空の掛け声と共に筋斗雲が自在に飛び回る。


    ききーーーーっ


「すごいや、これっ!!!どうもありがとうっ!!!」

「良かったですねぇ悟空」

「おう!も乗ってみろよ!」

「私ですか?...もう良い『子』と言えるような年齢じゃないんですけど...」

なら大丈夫だって!!なっ!」

満面の笑みで言ってくる悟空に、は苦笑しながら筋斗雲に近づいた。

「ダメだと思うんですけどねぇ...『とん』...え?」

「また乗れましたね...」

「はて?」

「...不思議な感触ですね」

「飛んでみっか?」

「ええ、飛び方は悟空に任せても良いですか?」

「おう」

が悟空を抱き込むように座ると、悟空は筋斗雲で空に舞い上がった。






「ねえ、ねえ、おじいさまっ!!わたしにも、あれちょーだいっ!!」

「ん?...そのギャルもお前を助けてくれたのか?」

「いーえ、ぜんぜん」

「何よ!塩水あげたじゃないのっ!!!」

「あれはあの青年では?」

「元々水も塩も、わたしの持ち物よっ!!」

「あいにくと筋斗雲はあれひとつでな。代わりに何かやってもいいんじゃが............ただし...パ...パ...パンチーを見せてくれたらな!!」

「えっ!?パ、パンティ!?」

ブルマが顔を赤くして驚きの声を上げると、亀仙人は深く頷いた。

「せ、仙人様ともあろう方が何と言うことをっ!!」

「い、良いじゃないかっ!!仙人だってたまにはパンツぐらい見たいわいっ!」

「...筋斗雲に乗れない訳が分かりましたよ」

「だまれ!!」

「い、いいわ...そ、それぐらいなら何とか...はいっ!!!」

ブルマがばっとスカートをめくると、それを見た亀仙人が鼻血を噴いた。

「きゃっ!恥ずかしいっ!!」

「み、見たかっ!!い、い、今のは思わぬ収穫!!もうけたなっ!!」

「せ、仙人さまっ!!」

「ねぇねぇ、で何をくれるの?」

「え?あっ、そうじゃな。な、何がいいかのう...」

考え込んでいる亀仙人をみていたブルマが、亀仙人の胸に光る首飾りに気づいて驚きの声をあげる。

「ちょ、ちょっと!!それ見せてっ!!」

「えっ!?わ、わしのブリーフかっ!?」

「見たくないわよそんなもん!!!首からさげてるやつよっ!!」

「え?これ!?...キレイじゃろ。100年ほど前に海底で拾って首飾りにしたんじゃ」

「ひょ、ひょっとして...まさか......!!!ちょ、ちょっと孫くーん、ー!!!来てご覧なさいよーっ!!!

ブルマに呼ばれた悟空が、筋斗雲を下におろしてブルマに近づく。

「なに?」「どうしました?」

「ほらっ!これ、見て見て見て!!」

「あーっ!!ドラゴンボール!!!」

「おや、本当ですね」

「ねっ、ねっ、ねーっ!!」

「ドラゴンボール?」

「星が3つ入ってるから三星球(サンシンチュウ)というやつだな」

「ほら、レーダーに映ったでしょ?ずーっと南にあったひとつ!あれよ!!」

「すごい偶然ですねぇ」

「高価なもんだったんじゃろか...」

悟空から三星球を受け取ったブルマが、笑顔で亀仙人を振り返る。

ブルマの後ろでと悟空も笑顔で顔を見合わせる。

「ラッキー!!!海の中だったら見つけるのに大変だったところよ!!ありがと!!これちょうだいね!」

「そ、それをやるとはまだ言っとらん」

「良いじゃない!!ほらっ!ほらっ、ほらっ!!」

ブルマが亀仙人に向かってスカートをめくると、はギョッとした顔になった。

「なっ!何をしてるんですか!!」

「えーっ!だってパンツ見せたら何かくれるって...」

「年の差を考えてください。そんなの冗談に「よ、良かろう...あげる」...は?」

鼻血を拭きながら言った亀仙人の言葉に、は呆気にとられ、悟空とブルマが笑顔で喜ぶ。

は喜ぶ2人と亀仙人を交互に見たあと、深いため息をついた。






偶然手に入れた三星球を持って、筋斗雲に乗った悟空とそれぞれのバイクに乗ったとブルマがカプセルハウスへと戻って来ると、バイクをわきに止めた。

「着替えが済んだら、家をカプセルに戻して出発よ」

「今度見つけたらもう5個だ」

ブルマが家の中に入ると、悟空が筋斗雲の上にごろりと横になる。

「へへー、良いもんもらっちゃったなー」

「良かったですねぇ」

「ぎえええ〜〜〜〜っ!!!パッ、パッ、パンツがーーーーーーーーっ!!!!」

「!!!」

「...は?」

ブルマの叫び声にと悟空は首を傾げながら中へと入った。

「どうしたんですか?」

「どうしたんだ!?お前っ」

......なんでこんなところに...ま、まさか..............やっぱりーーーーーっ!!!!

間近でのブルマの叫び声に、はとっさに耳を塞いだ。

はは...は...はいて...な...なかった...

「はい?」

「そう気にすんな!チンやキンタマがなくたって生きて行けら!」

「?、悟空?」

「!?ど...どういうこと?...それ」

「今朝見ちゃったもんね!」

「.........え?」

「まま、ま、まさか、あんたがパ、パンツ脱がしたんじゃないでしょうね!?」

「パンツって何だ?」

「これよ!!!!」

「ああ、オラがとった」

「...............(うわぁ...)」

「...っの!!!」


  ドパラタタタタタタタ......!!!!!


「あたっ!!!あたたたたっ!!!!」

「...これってやっぱり親の責任ですよねぇ」

機関銃を怒りの形相で悟空に撃ち続けるブルマを見ながら、は深いため息をついた。







と悟空を仲から追い出し、着替えたブルマが家をカプセルに戻す。

「二度と人のパンツを脱がしたら承知しないからね!!!」

「いて〜、いてーなー。何でだよー」

「悟空、女の人にとって裸を見られたりするのは、とても恥ずかしいことなんです。分かりやすく言うと、弱点を人の目にふれさせている様な感じです。女性の体は男性と違ってとても繊細なものですから、乱暴に扱ってもいけませんよ」

「うー、よく分かんねぇけど、分かった」

「そのくらい分かりなさいよ!...バイクよりあんたの筋斗雲で行ったほうが楽そうね。乗せてよ」

「ダメだよ。あのじいちゃんが、よい子じゃないと乗れないって言ったろ」

「何言ってんのよ!わたしはいつも清く正しいわよ!!」

「乗ってみる?」

「まあ、私が乗れるくらいだから大丈夫『ずぼ  バン!』...じゃなかったみたいですね」

「それ見ろ」

「ど、どうしてかしら?何故...!?美しすぎることも罪なの!?」

「おかしいですねぇ...(人や妖怪を大量に殺したことがある私が乗れて、何故ブルマさんが乗れないんでしょうか?...私が物扱いされてるとは思いたくないですねぇ)」

結局ブルマは筋斗雲に乗ることが出来ず、と共にバイクで行くことになった。

のバイクと筋斗雲はかなりのスピードで進むため、ブルマのバイクがわずかに遅れる。

「のろいなあ」

「うるさいわねっ!!あんたらスピード違反よっ!!!」

こうして3人は騒がしく西へと進んでいく。









あとがき

ドラゴンボール第七話終了です。
主人公、筋斗雲に乗れました!...物扱いという可能性も捨て切れませんが...

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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