、おはよー」

「おはようございます、悟空」

いつものように日が昇る前から起きて体を動かしていたに、目を覚ました悟空が挨拶してくる。

「悟空、顔を洗ったら薪を取ってきたもらえますか?大分残りが少なくなってきたので」

「おう、いいぞ!」

「お願いしますね」

「おう!行ってくっぞ!」

「いってらっしゃい」

自分の背丈よりも大きなノコギリを担いでいった悟空を見送り、は家の奥に飾られているオレンジ色の球を見た。

「...もう、5年も経つんですね...」

は家の中に向けていた目を伏せ、自分の首にかかっているペンダントを見つめた。







悟空が七歳になったころ、家事や育児に追われているを心配して悟飯がに休みを取るように言ってくれたときがあった。

としてはそれが大変だと思ったときはなかったのだが、自分がたびたび出かけているのに、がパオズ山に篭りっきりだったのが気になったらしい。

悟飯は悟空の面倒は自分が見ているからと、に小遣いだと言ってお金を渡し、一週間ほど町で羽を伸ばしてくれば良いと言った。

は悟飯の自分に対する気遣いを感じて、照れたように笑いながら2人にお土産を買ってくると言って町へと出かけて行った。

しかしが町に滞在して3日目の夜、の携帯が悟飯のペンダントから発せられた信号を受信し、『強制転送(ムーヴ ムーヴ)』で慌てて戻ったパオズ山では悟空が大猿に変化し、悟飯の家が踏みつぶされ瓦礫と化していた。

はペンダントの反応が瓦礫の下にあることに顔を青くし、悟空を念で眠らせると瓦礫を掻き分けて悟飯の姿を探した。

瓦礫の下から掘り出された悟飯はすでに虫の息で、がどんなに手を尽くしても助からないだろうということが見ただけで分かってしまった。

それでも何とか助けようとするに、悟飯が弱弱しい笑みを浮かべながら話しかけた。

「...、分かっておるんじゃろ?もう、助からん」

「っ!!...っ!」

「やれやれ、今日のは随分と泣き虫だのう」

「ご...はん...さ...」

言葉を詰まらせながら、必死に傷を塞いでいるに悟飯が穏やかな笑みを浮かべる。

「なぁ、。ワシはここで1人で静かに死んでいくんだと思っとったんじゃ。しかし、が来て、悟空が孫になって、家族になれた。...幸せじゃったんじゃよ」

「っ私も...です」

「笑ってくれんか、。泣き顔も捨てがたいが、どうせなら笑顔を見ながら眠りたいんじゃ」

「...っ...っ!」

は涙で頬をぬらしながら震える唇を引き上げ、いびつな笑顔を作る。

とても笑顔とは呼べないような顔のに、悟飯はとても穏やかな視線を向ける。

「...悟空を頼むぞ?」

「っはい...」

「...が息子で、ワシは幸せじゃったよ...」

「っ!悟...飯さん?」

の声にこたえることなく、悟飯は息を引き取った。

少しずつ冷たくなっていく悟飯の体を抱きしめ、は夜が明けるまで、声を押し殺し涙を流し続けた。










    第五話  旅立ち










!薪とってきたぞー」

物思いにふけっていたは、悟空の声でハッと我に返った。

自分の身長くらいの丸太の上で器用にバランスを取りながら近づいてくる悟空に、は笑顔を向ける。

「お疲れさま。私は家の中を掃除をしますから、薪割りをお願いしますね」

「おう」

が家の中を掃除していると、悟空の掛け声と共に木が砕ける音が聞こえて来る。

しばらくすると薪を所定の場所に片付けた悟空が家の中に入ってくる。

、オラ腹減った...」

「そう言えば、もう大分日が高くなってますね。私は掃除が終わったら畑に行って野菜や果物を取ってきますから、お肉かお魚をお願いしても良いですか?」

「んじゃあ、とってくっぞ!」

「お願いしますね」

「おう!」

の言葉の頷くと、悟空は家の奥に飾られている球に手をあわせた。

「じいちゃん、エサとってくる」

(...食糧って言った方がいいんですけど、悟飯さんも『エサ』って言ってましたしねぇ)

「いってくる!」

「はい、いってらっしゃい」

はのんびりと歩いていく悟空を見送ると、手早く掃除を済ませ近くにある畑へと向かった。






が籠いっぱいの野菜や果物を抱えて戻ると、家の中から悟空以外の声が聞こえてきた。

「きゃーっ!きゃーっ!!!やっぱりあったわ!!レーダーに映ったとおり!!」

「こらっ!じいちゃんに触るなっ!!!それはじいちゃんの形見だ!!女だって触っちゃダメだっ!!」

「しょうがない。教えてあげちゃおかなー」

「?」

が家の入り口に着くと、飾ってある玉の前で悟空と見知らぬ少女が話をしていた。

「ほれ!!」

「あ!!!じ、じいちゃんだ!!お前も2つ持ってたんか!!」

「悟空、お客様ですか?」

「あ、!こいつ女で、じいちゃん2つ持ってるんだ」

「...悟空、その言い方だと私にしか伝わりませんよ」

が分かるんなら大丈夫じゃねぇのか?」

「まあ、そうなんですけどね」

「へぇ、子持ちの割りには若くて良い男じゃない」

悟空の横にいた少女の明け透けな言葉に、悟空と話していたが苦笑する。

「ありがとうございます。ところで、何故こんな山奥に?」

「これを探してたのよ」

「お前、じいちゃんを探してたんか?」

「これはさあ、ドラゴンボールっていうのよ」

「ドラゴン...ボール?」

「わたしんちの倉にさあ、この球がひとつあったのよね。で、何かなー?と思ってみんなに聞いても知らないわけ。いろいろ調べてみたらさ、すっ語い昔の文献を見つけて、それを見たらやっと分かったんだよね。この球の名前は『龍球(ドラゴンボール)』、ホントは全部で七個あるんだって。鈍く光って中に星が一粒から七粒まで入ってるのが特徴なのよ」

少女の言葉に、と悟空が家にあった球を覗き込む。

「そうだ!じいちゃんのは星が4つ入ってる!」

「それは四星球(スーシンチュウ)って言うの。私が最初に見つけたのは二星球(アルシンチュウ)!こっちの方は10日ぐらい前に苦労して探し出した五星球(ウーシンチュウ)でーっす」

「お前、これを探してるの?」

「そうよ!7つ全部探すのは大変なんだから!」

「でも、何でこれ探してんだ?数珠にするのか?」

「それは女の子が持つには重いと思うんですけど...」

「まさか!7つ全部集めるとすごいことが起こるのよねー!七つのドラゴンボールを集めて呪文を唱えるとさ...神龍(シェンロン)、つまり龍の神様が現れてどんな願いでもひとつだけ叶えてくれるのよ!!」

「げー!す、すげえな!!」

「苦しいときの神頼み...ですか(他力本願ですねぇ)」

「まあ、そんなところね。前にドラゴンボールを集めた人は、王様になったらしいわ!でも長い年月をうちに、ドラゴンボールはまたバラバラになっちゃったみたい。それをわたしが再び集めようってわけ!」

そこまで言うと、少女は立ち上がってこぶしを握る。

「ふふふ...わたしの願いはもう決まってるわ!!食べきれないほどのイチゴって言うのも捨てがたいけど、『素敵な恋人!!』これよね!!」

「............」

「......(...女の子ですねぇ)」

「と言うわけだから、その四星球わたしにちょうだい!!」

「だめ!!だめだめ!!これはじいちゃんの形見だもんね」

「あ!何よケチねー!!いいじゃない。あんたは別に使い道無いんでしょ!!」

「べー!」

「...形見に使い道とか関係ないと思いますけど」

四星球を遠ざける悟空と呆れたような視線をよこすに、少女がにやっと笑った。

「あー、分かった!!うふふ、おませさんね!」

「「?」」

「チラ!これでどう?ちょっとぐらいなら触っても良いわよ」

悟空の目の前で自分のスカートをめくる少女に、は頭が痛そうにこめかみを押さえる。

「オラ、別に汚いケツ何か触りたくねぇ」

「汚くないわよ!失礼ねっ!!!」

「それ以前に、私と悟空に年齢を考えてください。どう考えたらそういう結論になるんですか...」

「目の前に16歳の美少女がいたら、普通デレッとするもんでしょ!!」

「(見た目が)28歳の私が、10歳以上トシの離れた子にそうなる訳ないでしょう」

呆れたように言うに、少女はムッとしながらも『が子持ちだから』と言う結論に達し、気にしないことにした。

「そうだ!!あんたら一緒にボール探しを手伝ってよ!!女には優しくしろって、おじいさんに言われたんでしょっ!?」

「ボール探しをか...?」

「どうせここにいてもヒマなんでしょ!?男だったら、いろんなとこ行って修行しなくちゃ!」

「うーん、も行くのか?」

「悟空が行きたいと言うなら、一緒に行きますけど?」

「んじゃ、行く」

「それなら着替えとか必要ですね」

が2人分の着替えを準備している横で、悟空が少女に話しかけた。

「一緒に探すのはいいけど...このボールはやらないぞ。オラが持ってる!」

「いいの、いいの!最後のちょっとだけ貸してくれれば!」

は悟空に見えないように含み笑いをしている少女を目の端で捉えた。

(何か隠してますね...あ、そう言えばこんなのも買ってましたね...)

の準備が終わるまでの間、悟空に魚を焼いて食べているように言うと、悟空の腹が思い出したように鳴った。

悟空と少女が魚を食べている間に、は準備を済ませると2人のいる外へと向かった。

「準備終わったの?」

「ええ、終わりましたよ」

「それじゃあ、楽しい旅にレッツゴーよ!!」

「でもさあ、他のボールがどこにあるかも分からないのに、どうやって探すんだ?」

「ふっふっふ、そこがわたしの頭の良いところよ!カオもカワイイけど...これよ!これ!」

そう言って少女は2人に手のひら大の機械を見せた。

「?」

「...探知機か何かですか?」

「ドラゴンレーダー!!ボールからわずかな電波が出てるのに気づいて、わたしが作ったのよ!ホラ、この3つが今わたし達が持ってるやつで...次はここね。えーと、西へ約1200公里(キロ)!!」

「?、?、よー分からん」

「太陽の沈むほうに、悟空なら...全力で走り続けたら3日間ほどで着く距離ですね」

「イッ!メシも食わねぇでずっとか!」

「そうですよ」

「ひゃー!!」

と悟空が話している横で、少女がウエストポーチの中から何かを取り出した。

「あんたが車壊しちゃったから、違うのを出さなきゃね。ところであんた達名前は?」

「オラ?オラ悟空だ。孫悟空」

「私はです。名字が違うのは気にしないで下さいね」

「...気になるんだけど」

「お前は?」

の言葉に不思議そうにしている少女に悟空が名前を聞くと、少女はしばらく言葉に詰まった。

「.........ブルマ...」

「ブルマ!?ははーっ、変な名前だな」

「うるさいわね!!私だって気に入ってないわよ!!!」

「おや、そうなんですか?服に名前が書いてあるから、気にいってるのかと思ったんですが...」

「え!?どこにっ!!?」

「この前のところに」

が自分の胸元を指して場所を示すと、ブルマは慌ててその部分を見て嫌な顔をする。

「...気づいてなかったんですね」

「はははー、ブルマかー」

苦笑しながら言うとまだ名前を笑っている悟空を睨みながら、ブルマは手に持っていた箱を開けた。

「あ、私たちの乗り物1つだけですけど持ってますから、一人乗り用で良いですよ」

「そう...と、何番だったっけ?...9番か!!」

ブルマは箱の中から『9』と書かれたものを取り出すと、スイッチを押して放り投げた。

「ほら、離れて、離れて!」


   BoM!!


「さー、行くわよ」

爆発音と共に何もなかったところにバイクが出現し、悟空が驚いた顔になる。

「げげげーっ!よ、妖術だ!!!やっぱりお前妖術使いだろーっ!!!」

「妖術じゃないって!ホイポイカプセルぐらい都じゃ常識よ!......さんのは?」

「言い辛いなら、呼び捨てでかまいませんよ。私のもバイクですね」

「......?、?」

如意棒でブルマのバイクを突付いている悟空に苦笑しながら、も手に持っていたカプセルを人のいないところに放り投げると、爆発音と共にブルマのものよりふたまわりほど大きなバイクが出現した。

イ゛ッ!!もなのか!?」

「悟空、そんなこと言ったらあなたの如意棒だってそうでしょう?これも単に大きくなっただけです」

「......そうなんか?」

「ええ(かなり強引なこじつけですけど)」

「話はいいから早く乗んなさいよ!」

「そうですね。悟空、乗ったら私につかまってて下さいね」

「?、おう」





  ウオン! ビビビーーーー...ン

   ウィィィィィーーー....ン



「うわっわっわわーーーーっ!!!」


  ヴァビーーーーーーーーー....ン


   ウィィィィーーーーー...ン



「ちょっと!信じらんない!何でそんなに大きい車体でそんな音なのよ!!!」

「いろいろ弄りましたからねぇ」

「すっ、すげーなコレッ!!!オラが走るよりずっとはえーぞっ!!!」

「悟空、ちゃんとつかまってないと落っこちますよ」

「スピード出しすぎよ!!!」

「はい、はい」

並行して走るバイクに乗った3人(1人と2人)は、こうしてパオズ山を後にした。









あとがき

ドラゴンボール第五話終了です。
ここでのさんは、悟空の成長に合わせて外見年齢を変化させています。

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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