今日も朝から天気が良く、鳥達の声がそこかしこで聞こえるパオズ山では、3人がのんびりと朝食を食べていた。
「むぐむぐむぐむぐもぐもぐもぐもぐ...ごっくん」
「はい、よく出来ました。悟空、次はこれですよ。口を開けてください」
「あーーん、もぐもぐもぐ...」
「、甘やかすばかりではいかんと思うがのう」
「まあ、そうなんですけど...食べる量が量ですから、ちゃんと噛まないで飲み込んでいるせいで、おなかいっぱいに感じて無いのかと思ったんですが...」
「食べる時間が長くなっただけで、量は大して変わって無いのぅ」
「どうやったらこの小さい体にこれだけの量が入るんでしょうね」
「ー?」
口の中の物を飲み込んだ悟空が、の服を引っ張って催促する。
「はいはい、ほら口を開けて」
「あーん」
「悟空に比べて、はほとんど食べとらんだろう」
「もぐもぐもぐ...」
「悟空と比べたら、悟飯さんだって少ないでしょう?」
「むぐむぐむぐ...」
「まあ、その通りなんじゃがのぅ」
「ごっくん...ー」
「はい、あーん」
「あー...」
大きく口を開けて待っている悟空に、悟飯が笑い声を上げる。
「ほっほっほ、悟空は大きくなりそうじゃのう」
「食べた分が、身長まで回ればですけどね。今は動物達と一緒に遊ぶので、ほとんど消費してるみたいですし...こういう所はあの『悟空』と一緒ですけど」
「何、元気な証拠じゃよ」
「そうなんですけどね」
苦笑しながら悟空に食べさせているに、悟飯が思いついたように話かけた。
「そうじゃ、しばらく家を空けても大丈夫かのぅ?」
「え?特にこれと言って用事はありませんから平気ですけど、どこかへお出かけなさるんですか?」
「うむ、しばらく連絡を取っていなかった師匠を訪ねようかと思っての」
「師匠って、以前に言ってらした武天老師様ですか?」
「そうじゃ、随分お会いしてなかったからのぅ」
「...そういいながら、孫自慢に行くわけではありませんよね?」
「ぎくっ」
の指摘に、ぎくっと口に出して言う悟飯に呆れた顔をする。
「口で言ってどうするんですか...どれ位かかりますか?」
「そうじゃのぅ、大体ひと月もあれば十分だとは思うが...」
「分かりました。悟空のことは任せて、ゆっくりしてらして下さい」
「ほっほっほっほ、では存分に羽を伸ばさせてもらおうかのぅ」
「羽を伸ばしすぎて、女の子にひっぱたかれたなんてこと無いようにして下さいね」
「ほっほっほっほっほっほ...」
の言葉に笑って誤魔化している悟飯に、しょうがないという感じで肩をすくめた。
第四話 留守番
悟飯が出かけてからひと月あまりたったある日、家の前では悟空が小猿たちと遊んでいた。
「ききっ」
「おー」
「うきききききっ」
「むー...ぬーーぅ」
「ただいま悟空、いい子にしてましたか?」
「ー」
食料を抱えて戻ってきたに気付いた悟空が、うれしそうにの名前を呼ぶ。
「あなたたちも悟空と一緒にお留守番ありがとうございます。はい、お礼のりんごですよ」
「「きききっ!」」
「はい、どういたしまして」
「ー、オラもー」
「はいはい、持てますか?」
「おー!」
がりんごを手渡すと、悟空も小猿たちと同じように食べ始めた。
その様子を見ながらが笑みを浮かべ、家の中へと入っていく。
しばらくしてりんごを食べ終えた悟空が小猿たちに手を振って、を追いかけて家の中へとおぼつかない足取りで向かった。
「ー」
「ん?お腹すいたんですか?」
「おー」
「もうちょっと待っててください。今作ってますから」
「あーい」
素直に返事をする悟空に小さく笑いながら、はテキパキと食事を作っていく。
次々にテーブルに並べられていく料理に、悟空がよだれを垂らしながら待っている。
それに気付いたが苦笑すると、先に食べててもいいですよと声をかける。
悟空はそれを聞くと、手近においてあった肉まんを掴んでかぶりついた。
「そんなに急いで食べなくても取ったりしませんから、ゆっくり食べなさい」
「んー...」
「口に物が入ってるときは、無理に声を出さなくてもいいですよ」
「おー」
の言葉に頷きながらも、食べるスピードを緩めない悟空に苦笑しつつ、は食事の仕度を続けた。
作っていく端から平らげていく悟空に、いつものように体のどこに入っていくのか疑問に思いながらも手は休めずに作り続ける。
「ぷー、ごちとさまでーた」
「はい、お粗末さまでした」
が作ったほとんどの料理を平らげて満足のため息をつく悟空に、は苦笑しながらもいつものように言葉を返した。
積み上げられた食器を水につけながら悟空の様子をうかがうと、悟空はお腹いっぱいになって満足したように笑いながら、ぷっくりと膨れたお腹をさすっていた。
その様子が悟飯にそっくりだったため、は思わず噴出してしまった。
「?」
くすくすと笑い続けるを悟空が首を傾げながら見ているのに気づき、は何とか笑いをおさめると悟空に話しかけた。
「悟空は悟飯さんにそっくりですねぇ」
「じーちゃ?」
「ええ、そうですよ。おじいちゃんにそっくりですねぇ」
「ねー」
今度はのマネをしているらしい悟空に、噴き出しそうになりながらも何とか抑える。
「...子どもって本当に人の真似が得意なんですね。悟飯さんが帰ってきたら注意しとかなきゃいけないいんでしょうか?女の子に目が無いところが似たら困りますし」
「?、ー?」
「何でもありませんよ。もうすぐ悟飯さんが帰ってくるだろうなぁと思っただけです」
「じーちゃ、かーってく?」
「ええ、もうそろそろだと思いますよ。いい子で待ってましょうね?」
「あーい」
元気に返事をする悟空に、も笑顔を浮かべて悟空の頭を撫でる。
「悟空、もう少し遊んできますか?」
「おー!」
「あまり遠くに行ってはダメですよ」
「あーい」
おぼつかないながらも元気に駆けていく悟空を見送ると、はたまっている食器を洗い始めた。
「ふぁーーーーーーあぁ...」
「悟空、眠いなら先に寝ててもいいんですよ?」
「やぁー、じーちゃ、まちゅー」
「しょうがないですねぇ」
その日の夜、悟空は昼にが言ったことを覚えていたらしく、悟飯を出迎えようと珍しくがんばって起きていた。
「悟空、それなら少し外に行きますか?」
「とー?」
「ええ、悟飯さんが近くまで来てるかもしれないですから、外で待ちましょうか?(たぶん抱っこされているうちに眠くなるでしょうけど)」
「んー...」
悟空が目をこすりながら頷くと、は苦笑しながら悟空を抱き上げ外へと向かった。
外はさわやかな風が吹き、虫達の鳴き声が木霊している。
「今日は月が明るくて、星があまり見えませんね」
「きぃー?」
と同じように悟空が空を見上げると、空には大きな満月が輝いていた。
しばらくの腕の中で空を見上げていた悟空がぴくっと体を震わせる。
「?、悟空?」
悟空はの声が聞こえないかのようにじっと月を見たまま、ビクッビクッと体を震わせる。
バリッ! バリバリッ!!
「ッ!?」
体を震わせていた悟空が服を破るほど大きくなり、の腕を振り解く。
ぐぐぐぐぐ...ぐぐぐぐぐぐぐぐ...
呆然とが見つめる中、悟空の体はさらに大きくなっていき、とうとう怪物猿へと変化した。
『ガオォォォォーーーー!』
『グオォーーー...ン!!!』
「......質量保存の法則完全に無視ですね」
雄たけびを上げる悟空を見上げながら、はどこかずれたことをぽつりと呟いた。
『ガアァ!!』
ガゥーン! ズーン!! ベキベキベキベキッ!!!
バキバキバキバキッ!!!! グワシャッ!!
叫び声を上げながら暴れ始めた悟空から、も慌てて離れる。
が近くにいようがいまいが関係なく、手に届く範囲にあるものを悟空が次々と踏み倒し、殴り倒していく。
その様子には顔をしかめると、悟空の様子を観察するかのようにじっと見つめた。
(完全に自我喪失状態と見ていいでしょうね。普段あんなことをするような子ではありませんし...もしかして、人に懐かなかったのは今の状態が影響していたからなんでしょうか?)
バキバキバキバキッ!!!!
「...考え込んでいる場合ではありませんでしたね。んー、やはりここはナハトさんの能力が1番でしょうか...」
そう言っては『贋物の本物』を使った。
「贋物の本物 object『ナハト』 ability『捕獲網』」
ブゥーン バサッ!
ドオーーーーーーンッ!!!!
具現化された巨大な網が、悟空に覆いかぶさり、地面にへばりつくようにして巨大な体を引き倒す。。
『ガァーーー............ZZZZZZzzzzzz....』
倒れたときに大声を上げていた悟空は、網に付加されている効果で眠ってしまった。
「ふぅ、うまくいきましたか...後片付けが大変そうですね...」
悟空が眠ったことを確認したは、周りを見渡して疲れたため息をついた。
山の木々が大量になぎ倒され、悟飯の家も踏み潰され、周辺は瓦礫の山と化していた。
はもう1度ため息をつくと、能力を発動させて悟空に寄り掛かったまま、ひと晩中外で過ごした。
翌朝帰ってきた悟飯も、自分の家が瓦礫と化した光景に驚いてポカンと口を開けていたことに、はこの世界でもそこまで非常識ではないのだなと安堵のため息を漏らした。
あとがき
ドラゴンボール第四話終了です。
とうとう悟空が大猿に...
ネタ晴らしになるのですが、ナハトさんの能力をちょっと解説します。
捕獲網は、捕獲対象の陸生生物の大きさに合わせた網を具現化し、網にかかった生き物は強制的に眠らされる。
常にオーラを流せば効果は持続し続けますが、流すのを止めても10分間はそのまま寝ています。
動物を傷つけずに観察するために考え出された能力です。
ついでに、ナハトさんは水生生物用の能力も持っています。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
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