パオズ山は今日も天気が良く、は悟空を背負いながら洗濯物を干していた。

の背中では、風で揺れる髪を掴もうと悟空が手を伸ばしている。

「あー」

「...............」

「ぁうー」

「...............」

「...悟飯さん」

「う?」

「悟空ではありませんよ」

「うー?」

「...........................」

「はぁ、いい加減にいじけるのをやめて下さいませんか?」

「.............」

「悟飯さん、いい加減にしてください」

そう言ってが振り返ると、悟飯が家の入り口でしゃがみこんでいじけていた。

「そうは言うがのぉ、孫に懐かれんというのは悲しいんじゃぞ...それに引き換え、おぬしは...」

「私の場合は、動物や子どもに警戒心を持たれにくいんですから、諦めて下さい。それに、最初に比べたらマシでしょう?」

「...しかしのう...」

まだいじけている悟飯に、はため息をつく。

「(しょうがないですねぇ)これが終わったら、食料を採りに行って来ますから悟空と留守番してて下さい。悟空と一緒にいる時間が長い方が慣れてくれるでしょうし」

「また、泣き出すと思うがのう...」

「いい加減、悟空も人に慣れなきゃいけないでしょう?大きくなっても人見知りが激しいままでは困りますし」

「うーむ、確かにそうなんじゃが...」

「あまりにも酷いようでしたら、少し広い場所に連れて行ってください。ハイハイも出来るようになりましたから、動き回れば眠くなるでしょうし」

「そうじゃのぉ、では2人で留守番しておこう」

「ええ、お願いします」

少し立ち直った悟飯には笑みを浮かべながら言った。






「大体こんなものでしょうか?そういえば、悟空もそろそろ離乳食を固めにした方が良いですかねぇ?」

 ピピピピピピピピピピ....

が両手で果物や魚などの食料を抱えながら移動しているとき、突然携帯が鳴った。

は食料を汚れないように切り株の上に置くと、携帯を取り出した。

「?悟飯さん?どうしたんでしょうか?」

は首をかしげながら電話に出る。

「もしも!悟空が谷に落ちたんじゃ!!すぐに来てくれ!』

「ッ!!今どこですか?!」

『あの広場じゃ!頭を打っておって、出血がすごい!!』


   ダッ!!


はそれを聞くと、電話をかけたまま全速力で駆け出した。

「悟飯さん!私が行くまで止血をお願いします」

『もうやっとる。頼む!急いでくれ』

「もうすぐ着きます」

そういったとき、は切り立った崖から飛び降りた。


   ダン!!


は悟飯の横に着地すると、すぐに悟空に駆け寄った。

「どうじゃ?」

「そこら辺にある小石を取って下さい。止血点を圧迫します」

そう言うとは自分の服を切り裂き、布状にし始めた。

悟飯がに2cmほどの小石を数個渡すと、は小石を止血点のある耳の下や鎖骨のあたりに布できつく固定した。

そして、余った布で傷口を圧迫すると、悟空に衝撃を与えないようにそっと抱き上げる。

「悟飯さん、家に行きましょう。ここでは、これ以上のことが出来ません」

「うむ...すまん」

「それは、悟空が起きてから言ってくださいね?おじいちゃん」

「...そうじゃの」

つらそうに謝る悟飯にが少し笑いながら言うと、悟飯はほんの少しだけほっとしたように力を抜いた。

「行きましょう」

「うむ」

2人はそっと、しかし急いで悟空を家まで運んだ。









 第三話    変化









悟空が怪我をしてから十数時間後、悟空はベビーベットの上ですやすやと眠っていた。

、悟空の様子はどうじゃ?」

「私の血を少し飲ませましたし、熱も下がったので峠は越えたと思います」

「そうか」

の言葉に、悟飯はほっとしてため息をついた。

「はい。ただ、打ったのが頭なので少し心配ですけど...」

「まあ、これだけ生命力の強い子だ。大丈夫だと思いたいがのぅ」

「ええ」

そう言って、2人は黙って悟空を見つめた。

「あ、そういえば、私食料を置きっぱなしで来てしまいました」

「おお、そういえば食料を採りに行ったんじゃったのぅ」

「ええ、ちょっと取って来ますね。まあ、ほとんど森の動物達に取られてしまったでしょうけど...悟空が起きたら食べさせた方が良いですし」

「ほっほっほ、この子は良く食べるからのう」

「そうですね。では、ちょっと行って来ます」

「気をつけてのう」







「思ったより、取られてませんでしたね。これだけあれば、とりあえずは大丈夫でしょう」

そう言いながら、は悟飯の家へと歩いていく。

「ただいま戻りました」

「べろべろ...ばー

「きゃー!きゃっきゃっ」

「......」

「ほっほっほ、これこれ髭を引っ張ってはいかん」

「あう?」

「ほっほっほ、いい子じゃのう」

「きゃう!」

「...えーと...」

が家に帰ると、そこには信じられないような光景が目に飛び込んできた。

「おお、帰ったか。思ったより、遅かったのう」

「あ、はい...えーと、この状況はいったい...」

「うむ、起きたら悟空がワシに懐いてくれてのう。頭をぶつけたせいだと思うんじゃが」

「確かにその可能性はありますけど...ちょっと悟空をこっちに向けてもらえますか」

「分かった。ほれ、悟空、ちょっとの方を向くぞ?」

「うー?」

悟飯が悟空を抱えたままの方を向くと、は悟空の手や足を触診し始めた。

「うぅー、きゃぁー!」

「少し我慢しておるんじゃぞ?」

悟空はくすぐったいらしく、が触れると身をよじる。

はその様子に苦笑すると、悟空から手を離した。

「頭を打った影響は、その性格の変化だけのようですね。ちゃんと手足の感覚もあるようですし」

「そうか。やれやれ、安心したわい。悟空、あまりこのジジィを驚かさんでくれよ」

「いぃー?」

「ん?なんじゃ?」

悟空が笑いながら声を出すと、悟飯は首を傾げた。

はその様子に苦笑すると、悟空がいった言葉の意味の予測を悟飯に伝える。

「多分、おじいちゃんと呼んでいるつもりだと思いますよ」

「ほ?そうなのか?」

「いぃー!」

「ほう、そうかそうか。ほっほっほ」

嬉しそうに笑う悟飯と悟空を見て、も笑みをもらすと、食事の準備をするために食料を抱えて立ち上がった.

「悟飯さん、食事の支度をしてきますね。昨日食べなかったから、2人ともお腹がすいたでしょう?」

「おお、そういえば忘れておったのう。ワシはまだ大丈夫じゃから、悟空のを先にやった方が良いじゃろう」

「はい。では、悟空の世話少しお願いします」

「ほっほっほ、任せなさい」

「あい!」

悟飯のマネをして胸を叩く悟空に、2人は笑い声を上げた。







あとがき

ドラゴンボール第三話終了です。
今回、短くなってしまったような気が...(気のせいでしょうか?)

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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