少年陰陽師 (6)
『昌浩、起っきろー』
「.........」
『おーい』
「.........」
『起きなーい』
「そりゃあ、遅くまでに渡された本を読んでたからな」
チモの声に、身じろぎもせず寝ている昌浩を、見下ろす大きさの違う白い物の怪たちは、やれやれと肩をすくめた。
「おい、起きろ」
「.........」
「.........孫」
「孫言うな」
「...本当に寝てるのか?」
『起きてはいないみたいだよー』
思わずそう尋ねた物の怪に、チモはたしたしと尻尾を振りながら答えた。
「2人とも、昌浩は起きましたか?」
『あ、!まだだよー』
「お前たちだけで、先に朝食を済ませたらどうだ?」
「それじゃあ、いつまで経っても食器が片付かないでしょう」
妙に所帯くさいことを言いながら、昌浩に目を向けると、気持ちよさそうに熟睡している。
「やれやれ、しょうがないですね。チモくん」
『なーにー?』
「ちょっと昌浩を起こしてくれませんか?のしっと上に乗って」
「は?のしって...」
『はーい』
「それじゃあ、お願いしますね。千百」
がにっこりと笑みを浮かべ、意味を込めた名前を言った。
すると、チモの体がするすると包帯のようにほどけ、それと同時に体が大きくなっていく。
その様子をぽかんとして白い物の怪が見ているうちに、変化が終わった。
そこにいたのは、座った状態で人の背ほどもある、白銀の10本の尻尾と琥珀色の瞳を持った、大きな狐の姿だ。
『どうした、火の陰将。マヌケな顔になっているぞ』
「マヌケって...お前、ホントにチモか?」
『言っただろう。我は白面銀毛十尾だと。今の姿そのままだろうに、目が悪くなったか?』
「...なんか、口が悪くなってるぞ」
『こちらが本来の話し方だ。小さき時は、がくれた姿の印象を壊さぬように話している。その程度は、分かるだろう?』
思いっきり上から目線の話し方に、物の怪の口がひきつる。
まあ、神というのは大抵、唯我独尊だし、実際に上にいるから、しょうがないかもしれない。
「千百、おしゃべりもいいですが、昌浩のことを起こすのが先ですよ」
『ああ、そうだな。すまない。今起こす』
「...俺ととで、かなり話し方の雰囲気が変わるな」
『当然だ。は我の主だぞ。神の末席にいるお前と対応が違って、当たり前だ』
「そうかよ...て、お前何する気だ!?」
『昌浩を起こすに決まっているだろう』
「ぐぇっ」
「ま、昌浩ー!?」
容赦なく、大きくなったチモの体で、昌浩の上に座る。
さすがに飛び乗りはしなかったが、大人とほぼ同じ大きさの狐が乗ったのだから、当然昌浩はつぶれる。
起きたのを確認すると、チモはそれ以上衝撃を与えないように、ふわふわと浮きながらの隣へと移動した。
「だ、大丈夫か、孫?」
「ま、孫言うな!...うぅ、いったい、何...?」
「おはようございます、昌浩」
『起きたか、昌浩』
「おはようございます、叔父上...って、えっ!?でっかい物の怪!?」
体を起こした昌浩が、の隣にいたチモに気づき、ぎょっとして叫ぶ。
『物の怪ではなく、神だ。それとちゃんと名前で呼ばねば、我もお前を孫と呼ぶぞ」
「それはヤダ...あれ?名前って?俺を知ってるの?」
『知っているも何も、我はチモだ』
「え?...............えええええええええええ っ!?」
「朝から元気ですねぇ」
『さすが子供だ』
「言うべきことは、そう言うことじゃないと思うが...」
朝から叫んだ昌浩に、晴明からの手紙が届くのは、もう少し後のこと。
ありがとうございました!
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