彩雲国物語 第12話





迷惑極まりない王位争いから約1年。

の娘が逝ってから約2年。

自分も周りもだいぶ落ち着いてきたと感じる頃、は手土産持参で友人たちの元へと来ていた。

「うむ。この揚げ饅頭もなかなか」

(しょう)!それは俺のだ!」

「お前は食い過ぎじゃ。少しは遠慮せんか!」

の作った菓子に舌鼓を打っている老人3人は、そろって高い地位にある。

名は言葉を発した順に()鴛洵(えんじゅん)(そう)隼凱(しゅんがい)(しょう)瑤セン(ようせん)という。

茶鴛洵は太保(たいほ)、宋隼凱は太傅(たいふ)、霄瑤センは太師(たいし)という肩書を持っている。

もっともにとっては、そんなことあって無いようなものだが。

「鴛洵、英姫(えいき)ちゃんに干菓子(ひがし)送りますか?そろそろ(ふくろう)も食べられることも無くなったでしょうし」

ごく自然にこぼれたの言葉に、少しばかり王位争いの頃を思い出した3人はバツの悪そうな顔をする。

王位争いの最中は、梟を呼んだら間違いなく周りの人々に狩られていたので、遠くにいる友人たちとは全く連絡がつかなかった。

特に茶太保の奥方、縹英姫からの様子を尋ねる手紙が届いた時の3人の様子を思うと、は苦笑を禁じ得なかった。

3人の友人たちは、そのことを気にするでもなく庭を眺めるに肩の力を抜くと、再び菓子を口に運んだ。

しばらくして、大分腹も膨れたころ、庭を眺めていたがふと目を3人に向けた。

「...え〜ん、しゅ〜ん、よ〜ぅ」

「「「なんじゃ(だ)」」」

間延びしたの声に、3人はそろって嫌そうな声で答えた。

別に呼び方が気に入らなかったわけではない。

それなりに長い付き合いのある3人をあだ名で呼ぶことなど、今に始まったことではない。

ないのだが、このように妙に伸ばして言うときは決まって厄介事が降りかかってくるのだ。

「そんなに警戒しなくても...と言えないのが悲しいですね」

それもこの上なく厄介なことばかりだった。

「...で、今度はどうしたんじゃ?」

「また歩く奇怪な植物か?」

「それとも10年ぶりに思い出した厄介な罠か?」

いやいや、仕方なく聞き出した茶太保と、昔に起こったことを思い出して言う宋太傅と霄太師。

「残念ながら、どちらでもありません。でも...そっちの方がまだマシと言えなくもないですね」

「げっ」

「...はぁ」

「あれら以上...」

心なしか顔が青ざめている3人を心の片隅で気遣いながらも、話さない訳にはいかない。

何故ならば、自分が動くとさらに厄介事が増えそうな気がするから。

ただの勘ではなく、経験に基づいた勘なので、当たる確率が9割を超える。

「まあ、あなた達に被害が来ることはありませんよ」

「それは直接にか?それとも間接にか?」

「どちらもです...2年以内に何とかなるならですが」

「話せ」

時間制限があるなら早い方がいいと判断した霄太師にならって、他の2人も聞く態勢になる。

「私が占いに使っていた宝石覚えていますか?」

「ああ。確か、この位の金剛石や真珠なんかが入ってたやつか?」

「ええ、誕生石や十二支、星座の守護石だったり、色違いのものだったり種類と数は多いですけれど、大きさはそれ位です」

2cmほどの隙間を指で作った宋太傅に頷いて答えた。

「そう言えば、太陽やら星やらが刻まれた石で出来た箱に入れてたかのう?」

「小さいが質は良いと英姫が言っていた気がするが...」

他の2人の言葉にも頷いて肯定する。

「それを探してほしいんです」

「ほぅ、珍しいな。お前がそういう物に執着しているとは」

「探してほしい、と言うことは...家人がいろいろ持ち出した時か?」

「その石になんかあるのか?それとも箱の方か?」

3人の声が被ったが、特別製のの耳にはきちんとそれぞれが言った言葉が聞こえている。

3人ともそれを分かっているから言い直したりはしない。

はそれぞれの疑問に答える順序よく答える。

(えん)の言う通り、あの時に持ち出されたようなんです。ただ執着しているわけではありません。(しゅん)の予想通りに石が(いわ)く付きなんですよ」

「「「曰く付きじゃと(だと)?」」」

「ええ、それもこれ以上ないと言うくらい最悪の」

曰く、悲鳴の琥珀(アンバー)。夜な夜な聞こえる断末魔が人を死に追いやる。

曰く、血染めの黒真珠(ブラックパール)。水死体の中から発見された黒真珠。

曰く、怨念の金剛石(ダイヤモンド)。その金剛石にとり殺された者たちの怨念が染みついている。

曰く、王墓所の緑柱石(エメラルド)。身につけていた古代に滅び王国の王の死体が、3000年以上経っても腐敗することなくそのまま残っていた。

曰く、狂信者の紅玉(ルビー)。邪神を崇めていた狂信者が、1000人の生き血を浴びせ、捧げものとした。

曰く、水魔の青玉(サファイア)。身につけていると、水のない場所でも溺死する。

その他いろいろ、すべて(、、、)曰く付き。

それを聞いた3人は、顔色が青を通り越して白くなり、気を失いかけた。

気を失った方がどれだけ楽かと切に思うが、時間に限りがある以上気力で何とか持ちこたえないと非常にまずい。

「一応、ひとつひとつを封じていますし、箱の中に入っていれば、あと30年は余裕なんですけれど」

「恐らく、足がつかないようにバラバラに売り払っておるだろうな」

「最悪箱も壊されるか、売られるかするだろうな...茶州にも流れていってるだろうな」

「念のために...いや、俺らの安全のために新しい箱作ってくれ」

ゲッソリとした顔で言った3人に、申し訳なく思いながら頭を下げた。

後日、他の友人たちに送る手紙にも同様のことが書かれ、受け取った者たちが頭を抱えることとなる。

















ありがとうございました!


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