迷子の旅 in ハリーポッター(22)
中庭を囲むように数人の教師と多くの生徒たちが鈴なりになり息をのんで見守る中、白と黒の人影が鏡合わせのように睨み合っていた。
いや、その表現は正しくない。
両者の目は服と同色の布で覆われているのだから。
片や長い白髪を背でひとつまとめ、白い狩衣を纏い、中央に模様が赤い糸で刺しゅうされた布で目を覆っている。
片や短い黒髪を風になびかせ、黒い狩衣を纏い、中央に模様が銀糸で刺しゅうされた布で目を覆っている。
同じなのは、共に右手に刀を握っていることだけだ。
突然、対峙している2人の間に強い風が駆け抜けた。
それを好機と見たのか、白い影が黒い影へと刀を振り下ろす。
見物人が息をのむ中、黒い影は自らの刀で受け流す。
黒い影は受け流され体勢をわずかに崩した白い影を薙ぐ。
白い影は受け止められないと判断すると素早く腰を落とす。
頭上を通って行った刀が白い髪を数本宙に散らした。
腰を落としたまま、白い影の刀は黒い影の脇腹を狙う。
黒い影は体の重さを感じさせない動きで後ろへと跳んだ。
白い影も同じような動きで詰め寄ると返す刀で黒い影を斬りつける。
黒い影が白い影の刀を弾くように振り上げると、剣戟を響かせながらお互いの刀の軌跡が変わる。
時に避け、時に受け、時に流し、時に振り上げ、振り下ろし、斬りつける。
鈴の音に合わせた舞のような2人の完成された動きに、誰もが引き込まれる。
そして2人がお互いの首に刀を衝きつけ、刀を鞘に仕舞うと、誰もが詰めていた息を感嘆を共に吐きだした。
黒い影、が目隠しを取ると白い影へ手を差し出した。
白い影は目隠しを取ることなく、の手に己の手を重ねた。
「手合わせありがとうございました」
「......」
の言葉に、白い影は無言のまま深く頷くとその姿を一振りの刀へと変じた。
「お疲れ!」
「すごいねぇ」
「すっごくキレイだっだよ〜!」
「素敵だったわ。言葉に出来ないくらい」
「ありがとうございます」
4人がざわめく周囲から駆け寄って言うと、は手の上に残った白鞘の刀を腰に差しながら答える。
「でも、剣が人に変わった時は驚いわね」
「杖も使わないしね」
「しっかし、どうやってんのかさっぱり分かんねェな」
「分かんなくてもイーじゃない?要は日本の魔法はとっても面白いってことでしょ?」
「「せめて興味深いにして(おこうよ)(おきましょうよ)」」
ウィニアの言葉に双子が呆れながら言う。
「俺はどっちでもいいと思うがなぁ...ところでこれって剣が特別なのか?それとも何でもこんな風に出来るのか?」
「どちらともですね」
はジェイクの質問に答えたが、4人ともいまいち理解できなかったようで首を傾げている。
「先ほどのは『式』と言う術...魔法です。基本的には陰陽師という日本の魔法使いに使役される妖や霊のことを言います」
「基本的にってことは、応用もあるんだよね?」
「ええ。妖や霊以外にも、植物や虫、動物、今回のように刀なども式にすることができます。もちろん、それなりに制約はありますが」
「制約?」
「例えば、植物...そうですね、藤を式神にするします。藤と聞いて、真っ先に思い浮かんだのは花ではありませんか?」
「まあ、そりゃあな」
頷く4人にはさらに説明した。
「花というのは人を引きつけます。逆に言えば、幹や茎、葉より、花の方が植物の力としても、言霊―言葉に宿ると信じられた霊的な力―としても人への影響力があり、その影響力と自分の力を合わせることで対象、藤は式になりやすくなります」
「なりやすくってことは、花じゃなくても出来ないことはないのね」
「ええ、ただ能力的には落ちてしまいます。後は式になるものの年月も関係します。年月が経っているほど式になりやすくなります」
「たとえば?」
「そうですね...植物なら樹齢数百年以上、武器や道具などなら100年以上が望ましいですね。この刀も作られてから500年ほど経っています」
「へぇ〜」
「他には長年魔力を浴び続けていた、色や形が異なっている、固有の名前があるなどの事柄があります...こんなところですね」
はさらに説明を続けず、説明を終わらせた。
式の他に式神というものもある。
式神とは『式に下った神』のことだ。
一神教、多神教の知識はあるだろうが、神が人の下になるという考えは受け入れることが出来ないかもしれないと思ったからだ。
「まあ、今回の手合わせを参考にすれば、もう少し楽しくなるかもしれませんね」
話を切り替えるためにちらりと視線を向けながら言われた悪戯仕掛け人たちは、の予想通りの反応を返した。
ありがとうございました!
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