「うわっ!」

いきなり中に放り出される形になった祐は、どさりと音を立てて地面に落ちた。

「いたた...」

腰をさすりながら立ち上がると、は自分の周辺の状況を確認した。

「座標を間違えてしまいましたからねぇ。多分、というか間違いなく違う世界ですよねぇ...」

のいる周りには鬱蒼とした竹林が広がり、人のいる気配はない。

(ここにいてもしょうがありませんし、人のいそうなところに行きましょうか)

知らない場所なので、はセンサーを動かしながら適当に歩き出した。

3時間ほど歩き続けると、かすかに水の流れる音が聞こえてきた。

(川でしょうか?下流に行けば町があるかもしれませんね)

しばらく歩くと、水の流れる音は大きくなり、木々が途切れ開けた場所に出た。

その先は切り立った崖になっており、川は崖の下を流れているようだった。

は崖の淵から下を覗き込むと、人一人がやっと通れるほどの細い道を見つけた。

(道があるということは、このあたりに人がいるんでしょうか?)

が道を調べると、そこにはわずかながら足跡が残っていた。

足跡は崖から上流の森の方へと続いていた。

は数秒考え込むと、足跡をたどって森の中へと入っていった。

細い道の横には、いくつか切り口の新しい切り株があった。

(人がいるのは間違いなさそうですが...それほど多くはないでしょうね)

5分ほどで森を抜けると、少し離れたところに小さな家が建っていた。

(一人だけのようですね。まあ、現状の把握だけなら問題ないと思いますが)

は家の前につくとドアを叩いた。

    コンコンコン

「ごめんください」

「はいよ」

中からは一人の老人が現れた。

「どちらさんですかな?」

「突然申し訳ありません。実は、道に迷ってしまいまして...ここがどこなのか、教えていただきたいのですけれど」

「それは大変でしたなぁ。お茶を入れましょう。中にお入んなさい」

「ありがとうございます」

「おう、そうじゃ。まだ名前を言っとらんかったのぉ。ワシは孫 悟飯じゃ」

「孫 悟飯?」

「どうしたんじゃ、そんなに驚いて」

「いえ、知り合いに『孫 悟空』という子がいるのですごい偶然だなぁと思いまして」

「ほぅほぅ、珍しいこともあるものじゃのぉ。して、お前さんの名前は?」

「あ、申し遅れました。 です」





熱いお茶の入った湯飲みをの前に置くと、悟飯はの向かいのいすに腰掛けた。

「よっこらしょ。お茶請けでもあればいいんじゃが、何も無くてすまんのぉ」

「お気遣いなく。突然お訪ねしたのは私ですから」

「そういってもらうと気が楽じゃわい。確か、迷ってしまったんじゃったのぅ」

「ええ、ここがどこかも分からなくなってしまって」

「ほっほっほ、ここはパオズ山じゃよ。一応道はあるんじゃが、滅多にここまで人が来ることはないのぅ」

「へぇ、そうなんですか」

2人はゆっくりとお茶をすすり、穏やかに話を進める。

しばらく他愛のない世間話が続いた。

ふっと話が途切れたとき、ふと悟飯のもらした言葉にはわずかに動きを止めた。

「そういえば、お前さんも武術をやっておるのかね?」

「...ええ。お分かりになりますか?」

「ほっほっほ、なに、長いこと生きとると何となく分かるようになるものじゃよ」

「(私も70近いんですけど...)そういうものですか」

「そうじゃよ。が話していないことがあるのも、なんとなく分かるがのぅ」

ぴたりと動きを止めて驚いているを見て、悟飯は声を上げて笑った。

ほっほっほと笑う悟飯の顔を、はまじまじと見つめた。

(この人も、きっと人をからかって喜んでる人なんでしょうねぇ)

は笑い続ける悟飯を見ながら、深いため息をついた。

「良い若い者がため息なぞ似合わんぞ?」

「...ため息の原因はあなたなんですけど」

「ほっほっほ、そりゃすまんのぅ」

そう言って笑う悟飯に、は疲れを感じてもう一度ため息をついた。







   第一話  半年間の居候








「悟飯さん、昼食が出来ましたよ」

「おお、そうか。薪割りがもう少しで終わるから、それから食べるとしようかのぅ」

そう言うと、悟飯は年寄りとは思えないテキパキとした動きで薪割りを再開した。

5分ほどで薪割りを終えると、悟飯は汗をぬぐいながら家の中に入ってきた。

「おお、相変わらずうまそうじゃ」

食卓の上に並んだ料理を見て、簡単の声を上げる悟飯の前に、は湯飲みを置いた。

「ありがとうございます。冷めないうちに食べましょう」

「そうじゃのぅ」

「「いただきます」」




「ここの生活にもだいぶ慣れてきたようじゃのぅ」

「そうですね。流石にここの生態系には驚きましたけど...」

「そういえば、虎や魚がしゃべっったとき硬直しとったのぅ」

「ここの動物のほとんどが話しますからねぇ。まあ、慣れましたけど」

「ほっほっほ、それは何よりじゃ」

和やかな雰囲気で食事は進み、食後のお茶をゆっくりと飲む。

「今更ですけど、まさか信じてもらえるなんて思ってなかったんですよねぇ」

ポツリとこぼしたの言葉に、悟飯はほっほっほと笑った。

「なに、ここでは何がおきても不思議ではないからのぅ。違う世界から来たというのは今まで聞いたことがないが、ワシが知らんだけかもしれんしのぅ」

「...そうですか」

笑い続ける悟飯の言葉に、は疲れを感じた。

「さて、しばらく休んだらまた組み手の相手をしてもらおうかのぅ」

「かまいませんけど...手加減はしますよ?」

「かまわん、かまわん。おぬしが普通ではないのは今更だからのぅ」

「...(反論出来ない)」








そんなこんなで半年経ったある日。

「今までありがとうございました」

「ほっほっほ、こっちこそ楽しかったわい。しかし、ここも寂しくなるのぅ」

しんみりという悟飯に、はショルダーバックの中から小さな箱を取り出した。

はその箱を悟飯へと差し出した。

「悟飯さん、これを」

「ん?何じゃ、それは」

「それなりに関わりの深い知り合いには渡しているんですけど、異世界間でも話せる通信機器なんです。一応、見ただけではそれと分からないようにしてありますけど」

箱の中には、直径1cm位の淡い緑色の石に金色の金具がついたペンダントが入っていた。

「指輪やブレスレットのタイプもあるんですけど、ペンダントの方が邪魔にならないでしょう?使い方は、その石を左に90度回すだけなので簡単に使えますよ」

「ほぅ、便利じゃのぅ。しかし、こんなに小さくてはすぐに壊してしまいそうだのぅ」

「大丈夫ですよ。それには、以前話した念もかけてありますから10t位の衝撃には耐えられますよ」

「おお、前に聞いた何でもありの能力か。それなら安心だわい」

「...何でもありって」

「で、いつでも使っていいのかのぅ?」

「ええ、仕事中で話せない場合は後で私から連絡しますから。では、そろそろ失礼しますね」

「そうか、そうか。では、またのぅ」

「はい、またお会いしましょう」

は悟飯から少し離れると、強制転送(ムーヴ ムーヴ)を使った。

強制転送(ムーヴ ムーヴ) world No.1 point( 620.09, 183.4, 0.122) time (20120918.20:09:02:99) )


     シュッ!


「...行ってしもうたのぅ」



悟飯がに初めて連絡を入れたのはこの5分後。







あとがき

ドラゴンボールやっと始めました!
原作以前なので、今回は悟飯さんだけでした。
なぜかどの世界でもさんの周りにいる方々は、煮ても焼いても食えないのが多いんですが...

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
これからも読んでいただけるとうれしいです。


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