暖かい日差しが差し込むリビングで、は届いたメールをチェックしていた。

ウイルスメールは5倍にして送り返し、『イレブン』への依頼のメールを確認したあと、個人に届いたものを見ていく。

「おや、めずらしいですね。いつもは連名で送ってくるのに」

に届いたプライベートなメールの差出人の名前を見て、不思議そうな顔をしながらメールを読んでいく。

「............へぇ」

メールを読んだあと少し驚いたような顔をして、そのメールを見たまましばらく考え込んだ。

何かを思いついたは、これ以上に無いというくらいの笑顔で返信すると、ある人物達のホームコードに伝言を残して楽しそうに笑いながら返事を待った。

大して待つこともなく、ホームコードを確認したらしい人たちから連絡が届くと、は歌でも歌い出しそうなほど上機嫌で外出する準備を始めた。






連絡を受けてから2日後、はククルーマウンテンへと向かう観光バスに揺られていた。

の隣には、以前より貫禄が出てきたナハトと女らしさに磨きがかかったセシリアが座っていた。

3人のあいだに特に会話は無いが、は久しぶりの再会にニコニコと笑顔で、2人はそれに苦笑しているといった感じだった。

しばらくすると、バスはゾルディック家の正門前で停車した。

「ここが正門です。別名『黄泉への扉』と呼ばれております。入ったら二度と生きては出られないと言う理由からです。中に入るには、横にある守衛室横の小さな扉を使いますが...」

がガイドの声を聞き流しながら、『試しの門』へと向かおうとするのをナハトが手で制する。

はそれに首をかしげながらも、黙ってその場で立ち止まった。

1分も経たないうちに一緒のバスに乗っていたアマチュアのブラックリストハンターらしき人物達が5人ほど、守衛から乱暴に鍵を奪って中へと入っていった。

その様子にきょとんとした目を向けたが、守衛へと歩み寄った。

「ゼブロさん、大丈夫ですか?」

「おや、様。お早いお着きですね。後ろの方々がお友達ですか?」

「はい。ところで、この扉は何ですか?以前はありませんでしたよね?」

「ええ、ダンナ様方の方針なんですけれど『ゴゴゴ...』

ゼブロが言いかけたところで、先ほどのハンター達が入っていった扉がゆっくりと開かれていく。

たちと観光客の視線が開いていく扉へと注がれる。

扉の隙間から先ほどのハンター達の服を身に纏い頭部を砕かれた骸骨が、獣のような手につかまれて放り出されると、観光客達が悲鳴を上げ我先にとバスへと戻っていく。

観光客が先を争ってバスへと戻っていく中、平然としてんたガイドがゼブロのそばに立っていたたちに声をかけたが、はそれに何も言わずに笑ってひらひらと手を振った。

それを見たガイドがたちに向かってお辞儀をすると、たち以外全員乗ったバスへと乗り込み、バスを発進させて戻っていった。

「...知り合いだったのか?」

「知り合いと言うほどではありませんよ。以前乗ってきたときのガイドさんと同じ方だったので、分かってくださると思っただけですから」

「ここに留まろうとする人たちも少ないだろうから、すぐに分かったんでしょうね」

セシリアの言葉に頷くと、はゼブロへと視線を向けた。

「ところで、ゼブロさんがさっき言いかけたのはあの子のことですか?」

「ええ、今までのように門の説明をするよりは面倒が無いだろうとおっしゃって」

「ああ、門の説明を聞いて観光バスをのっとって突っ込んだ方もいらっしゃいましたからね。掃除費用もそれなりにしたんでしょう?」

「そうなんですよ。バスの撤去・門の補修・清掃費用とけっこうかかりましてね。まあ、バスが突っ込んだくらいではびくともしなかったんですが、やはり汚れがひどかったので」

「先を考えたら、ああいう風に引っ掛けてしまった方が楽ですよねぇ」

「ええ、何度もバカなことをされるよりは、ポチの餌代のほうが安上がりと言うわけです」

「ポチですか...番犬らしい名前ですね」

「いや、あれに『ポチ』と名づける感覚に疑問を持てよ」

「番犬らしい名前じゃないですか」

「あれって、犬なの?」

「一応犬だぜ。ハンター試験のときお前も見ただろ?」

「...を押しつぶしてた、あれ?」

「そう、あれだ。1年ほど前にシルバから依頼があって、あのときの奴を探し出して届けたんだが元気そうだな」

「あ、やっぱりですか。なんか骨格が似てるなとは思ったんですけど」

「...人を食べることに疑問は無いのね」

笑いながら言うとナハトに、セシリアが呆れたように呟いた。

「「どんな肉でも、肉は肉(だからな)(ですし)」」

「...確かに肉よね」

「ははは、さすがシルバ様のご友人たちですねェ。ああ、そうだ。執事には私から連絡を入れておきますよ」

「それでは、お願いします」

がそう言うと、3人は試しの門を開けてゾルディック家へと向かっていった。






3人がゾルディック家につくと、応接室へと通された。

それほど待つこともなく、シルバが応接室へと入ってきた。

シルバはほとんど表情を変えずに3人を見ると、ほんの少し困惑を含んだ声で尋ねた。

「...何故3人一緒にここに来たんだ?」

「「「呼ばれたから(です)」」」

「呼んだ覚えは無いんだが?」

「シルバさんには呼ばれてませんよ」

「...親父か?」

「いいえ、心当たりありませんか?」

がにっこりと笑いながら言うと、シルバは先ほどの無表情がウソのように不機嫌な顔をした。

その様子を見ていた2人は、面白いものを見つけたという感じでニヤリと笑う。

2人の表情の変化に気づいたシルバが苦虫を噛み潰したよな顔で何かを言いかけたとき、廊下のほうから慌ただしい足音が聞こえてきた。

  
   バンッ!!
 

「あなた、が来たのね!!まあ、久しぶりね!どうしたの?泥だらけじゃない!」

勢いよくドアを開けて入ってきたキキョウには苦笑し、シルバは深くため息をついた。

ナハトとセシリアは入ってきたキキョウにそれほど驚くことなく、執事が入れたお茶を飲んでいた。

「お久しぶりです、キキョウさん。走って大丈夫なんですか?まだ安定期前なんじゃ...」

「あら、これくらい大丈夫よ。今でも毒の入ったものを食べているけれど、何とも無いのよ」

「そうなんですか?それなら生まれてくる子どもも、最初から毒に強いかも知れませんねぇ」

「そうだったら嬉しいわね。ところで、どうしてそんなに泥だらけなの?そのままでは抱きつけないわね」

キキョウの言葉にわずかにシルバが反応したが、とキキョウは気にすることなく話を続ける。

「それがですね、ちょっとポチにじゃれ付かれてしまったんですよ。私もキキョウさんに抱きつきたいところなんですけど、ここまで汚れるとさすがに無理ですねぇ」

「それなら、着替えましょうよ。に似合いそうなものを、いろいろそろえてみたのよ!」

「私も加わって良いかしら?最近に会う機会が少なくて、いじってないのよ」

「あら、私ったら他にお客様がいらっしゃったのに、話に夢中になってしまって...」

「気にしてませんよ。から聞いているかもしれませんが私はセシリア、こっちがナハトです。呼び方はキキョウさんで良いのかしら?」

「呼び捨てでかまいませんわ。私、あなたの作品を何点か持っていますの。お会いできてとても嬉しいわ」

「うふふ、ありがとうキキョウ。私も呼び捨てでかまわないわ」

「おほほほほ、それでは呼び捨てにさせていただくわ、セシリア」

上品に笑いあう二人を見て、はニコニコと笑みを浮かべ、シルバは非常に不機嫌になり、ナハトは不機嫌になっているシルバを面白そうに眺めた。

笑いあう2人を見ているのに我慢が出来なくなったシルバが、に声を掛ける。

「...で、何のためにここに来たんだ?」

「シルバさんとキキョウさんが親になったことを祝いに来ました」

「せっかく友人が祝いに来たんだから、もっと喜んだらどうだ?」

「お前の場合は面白がっているだけだろ」

「あなた、せっかく来ていただいた友人に失礼ですよ」

「大丈夫よキキョウ、シルバは私達にヤキモチやいてるだけだもの。うふふ、愛されてるのね」

「あら、それとこれとは別よ。親しい人たちへの接し方がぞんざいになって良いわけでは無いでしょう?」

「気にすることねぇぞ。俺らのやり取りなんて、大抵こんなものだからな。表情が動いてるだけマシだろ?」

「そうですよキキョウさん。私達の場合、無表情なシルバさんを見る機会が少ないくらいですからね」

「...お前らその辺にしておけ」

ため息をつきながら話をさえぎるシルバに、キキョウは残念そうな顔をした。

「もう少し聞いていたかったわ」

「しょうがないわよ、シルバはキキョウの前では『かっこいい夫』でいたいみたいだし」

「あら、『かわいい夫』でも別にかまわないのに」

「うふふ、そんなシルバを見れるのはキキョウの特権かしら?」

「もちろんよ」

「シルバさんとキキョウさんは『ラブラブ』ですからねぇ」

「ほほほほほ、そうよ。もちろんも大好きよ」

「私も大好きです」

「............おい」

「あら、もちろんシルバの次によ」

「............」

「「っ!くっ..くくっ...」」

キキョウの言葉に一喜一憂するシルバに、ナハトとセシリアは顔を背けて笑いをこらえていた。

「じゃあ、生まれてくる赤ちゃんとシルバさんでは?」

「...どっちかしら?」

「おいっ!」

「「ぶっ!あははははははははは...」」

見ただけでからかっていると分かるキキョウと本気であせっているシルバに、ナハトとセシリアはこらえきれずに笑い出した。

2人が笑い出したことで我にかえったシルバが、苦々しい顔で笑い転げている2人を睨む。

その様子をキキョウは上品な笑みを浮かべながら見つめ、はきょとんとした顔で首をかしげた。

「キキョウさん、2人ともどうしたんでしょうか?」

「私とシルバのやり取りが面白かったんじゃないかしら」

「?、いつもと変わりありませんでしたよ?」

みたいに見慣れて無いからだと思うわ。そういえば、あなたの服のことを忘れてたわね」

「そうですね。セシリアさん、私着替えに行きますけど、どうしますか?」

「っく...ふっ...私も行くわ。せっかくをいじれる機会なんだから」

「...ほどほどにお願いします」

うふふふふふふふ」「おほほほほほほほ

「.........」

2人の楽しそうな笑い声には少なくとも3時間は着せ替え人形になることを覚悟した。







「......」

「おほほほほほ、やっぱりこれが1番似合うわね」

「うふふふふふ、髪形はやっぱりこうよねぇ」

「.........」

「髪留めはこれなんかどうかしら?」

「こっちのリボンも良いと思うわ」

「............」

「両方でも合いそうね」

「じゃあ、ここをこうして...」

「...............」

「さすがね、セシリア。のかわいらしさが際立ってるわ!」

「うふふ、ありがとう」

「...................」

2人がを着せ替え人形にすること8時間、最初のころは被害を減らそうと口を出していたも疲れ果て2人の成すがままとなっていた。

  コンコンコン

2人がに化粧をさせようか話していたとき、扉を叩く音が聞こえてきた。

キキョウが返事をすると、扉を開けてシルバとナハト、ゼノガ部屋の中に入ってきた。

シルバとナハトは、女性達(?)に遊ばれて疲れ果てているを生暖かい目で見つめ、ゼノは着飾ったをめずらしそうに眺めた。

が着飾っているのを見るのは初めてだな」

「そういえばが来ているとき、お義父様はたいてい仕事に出ていましたわね」

「......ゼノさん、お久しぶりです」

「ああ、久しぶり。疲れてるようだな」

「そうですね...この家で1週間拷問を受けたときくらいは疲れてます」

「...随分と懐かしいことを持ち出したものだ」

「拷問って、にゾルディックの暗殺方法でも教え込んだのか?」

「ああ、親父が面白がって教えてたな」

を養子にしようとも思ったが、結局断られたからな。その代わりにいろいろと試した程度だ」

養子を断られたことを思い出したのか、ゼノはやや不機嫌な声で答えた。

その話を始めて聞いたナハトとセシリアは自分たちの師匠の溺愛振りを思い出して納得したように頷き、キキョウは残念そうにため息をついた。

「それじゃあ、とは義姉妹になり損ねてしまったのね」

「「...義姉妹」」

「今のの格好を見たら...ね?」

「「......女だな」」

「...2人に『女性体』になるように厳命されましたから」

遠くを見ながら諦めたように言うに、シルバとナハトは慰めるように肩をぽんと叩いた。

ゼノもわずかに同情のまなざしで見ていることに気づくと、は先程より落ちこみながら話題を変えようと口を開いた。

「キキョウさん、お祝いの品は何がいいですか?」

「?...お祝いって?」

「私達元々お祝いするためにここに来たんですけど」

「そういえば、そんな内容だったわね」

「今日来たのはプライベートだったのか?てっきりシルバとキキョウに仕事を頼まれたからだと思っていたんだが」

「...あー、おれポチの様子しか聞いてなかったな」

「私もをいじるのに夢中になってたわね」

「お前らな...」

ナハトとセシリアの言葉にシルバは呆れ、は苦笑した。

「まあ、まだ生まれていないので、出産祝いとは言えないでしょうけど...こういう時何を送るべきなのかいまいち分からなかったので、聞きに来たんです」

「普通は赤ちゃんが使うような物なんでしょうけど...」

「シルバの所は暗殺一家だからな。どういうのが一般的なのかいまいち分からねぇしな」

「そう言われてもな...親父達のときはどうだった?」

「そうだな...大抵は産着や弱い毒、子どもでも使えそうな武器、装飾品だったと思うが」

「産着なら私が作れるわね」

ゼノの言葉にセシリアが呟くと、キキョウが嬉しそうにセシリアに話しかけた。

「セシリアが作るなら、やっぱり念が仕込んであるのよね?」

「そうよ。子ども名前は生まれた後で良いとして、ゾルディックのマークは入れる?」

「そうね。生地の色は白が無難かしら?」

「だったらいろいろ揃えておきましょうか?子どもは汗をかきやすいって言うし」

「まあ!それなら楽しみが増えるわね!!」

2人はたちを置き去りにしたままどんどん話を進めていく。

達はそれにやれやれといった感じでため息をつくと、顔を見合わせた。

「子供の服は気にしなくても良いみたいだけど、俺らはどうする?」

「ほかは毒か武器か装飾品でしたよね?」

「ああ、だが毒は大抵ここで手に入るぞ」

「家の庭にかなりの数植えられているからな」

「じゃあ、武器と装飾品か。武器は実戦向きので良いのか?」

「当然だ。実戦に不向きなものを持たせても意味が無いからな」

「そりゃそうだ。ちょっと変わってるが良い武器職人を知ってるから、そいつに注文しとくか」

「そうなると、私は装飾品ですか?」

の装飾品と言えばやはりあれか?」

「あれって、『イヤーズ・ストーン』のことですか?」

「ああ、そうだが...それ以外にも出来るのか?」

「彫るものを花と限定しなければ、いろいろなものが彫れますけど...デザインは任せてもらえますか?」

「かまわんさ。が作ったものなら信用がおけるからな」

「あの無線機もかなりの物だったからな。どんなものを作るか楽しみだな」

「...期待にこたえられるようにがんばります」

ゼノの言葉に照れたように笑いながらが答えた。






7ヶ月後生まれるシルバとキキョウの長男イルミは、『名前とゾルディックが刺繍された、たくさんの柔らかな絹の産着』をセシリアから、『さまざまな長さや太さ・素材の針』をナハトから、『銀色のゾルディックが中央に描かれ、細かな神字が掘り込まれた小さな黒曜石のペンダント』をから送られることとなる。








あとがき

ヒジリさんのリクエストで、H×Hのゾル家夢でした。
イルミさんが生まれる前のゼノさんがまだ40代なので、しゃべり方を変えてみました。


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