はいつものように家事をすませたあと、『イレブン』に届いたメールのチェックをしていた。
10分ほどで仕事のメールを確認すると、『』に届いたメールの確認へと移る。
毎日届くアサヒとビスケからのメールを読んで返信したあと、仕事以外であまり連絡をよこさないシルバからのメールがあることに気づいた。
メールには日付と時刻、そして『この時間に電話をよこせ』と言う1文のみだった。
シルバらしい簡潔な内容だったが、わざわざ直接電話しろと言われる理由が思いつかずには首を傾げた。
しかし、聞けば分かることだろうと思い大して気にすることなく、受けた仕事を片付けていった。
ピピピピピピピピピピピピ...
パソコンに向かって仕事をしていたの横で、セットしておいたアラームが音をたてた。
はアラームを止め、パソコンのデータを保存すると携帯電話を取り出してシルバへ電話をかける。
2回目のコール音が鳴る途中にシルバが電話に出た。
「お久しぶりです。ずいぶん出るのが早かったですね」
『、親父達にあれ渡したのお前だろ!』
の言葉に答えずに、いきなり話し出したシルバにはきょとんとした顔になった。
「渡したって...この間のターゲットの情報ですか?」
『違う!』
「んー、新種の毒のサンプル?」
『違う!!』
「えーと、ゼノさん達の結婚20周年のお祝いに差し上げたやつですか?」
『それだよ!何であんなもの渡しやがった!!』
「え?お祝いは何がいいですかってお聞きしたら、二人そろって『孫』っておっしゃったからですよ」
『だからって、見合い写真よこすやつがあるか!』
「だって、『孫』の前に『お嫁さん』がいないとダメでしょう?」
『見合い写真を持った親父とお袋、執事達にまで追いかけられる俺の身を考えろ!!』
「ちゃんと厳選した方ばかりですよ?容姿・年齢・仕事・実力・性格...かなり数が絞られて20人くらいでしたけど」
『そういうことを言ってるんじゃねー!何で俺が見合いをしなきゃいけないんだよ!!』
「何でって...ゼノさんの孫を作るため?」
『根本的に間違ってるだろうが!!』
「そうなんですか?」
シルバの言葉に本気で不思議そうに尋ねてくるに、さっきから怒鳴りっぱなしだったシルバは一気に脱力した。
『お前、何で俺がこんなに怒鳴ってるのか分かってねぇだろ?』
「お見合い写真を持ったゼノさん達に追いかけまわされたからですか?」
『それもあるが、俺に無理やり見合いをさせようって言うのが気にいらねぇに決まってるだろうが』
「無理やりって...選べるようにお見合い写真は複数送ったはずですけど?」
『そういう意味じゃねぇって』
「?、全員とお見合いさせられそうになったんですか?」
『根本的に違うって言ってるだろうが...結婚相手は自分で探すって意味だ』
「.....................シルバさんがですか?」
シルバの言葉に対して長い沈黙のあと答えたに、シルバはいらつきながら言い返す。
『何だよその間は!親父だって自分でおふくろのこと探し出したんだぞ。俺だって自分で探すさ』
「ゼノさん達みたいに相思相愛の方をですか?」
『ああ』
「相思相愛で、ゾルディックで生き残れるような方をですか?」
『...ああ』
「相思相愛で、ゾルディックで生き残れて、暗殺者になれて、自分の子どもを暗殺者として育てられる方をですか?」
『......ああ』
「どこで見つけるつもりですか?」
『.............』
「相思相愛は別にして、その後の条件に当てはまりそうな人はゼノさんに教えてしまいましたし」
『.................』
の言葉にシルバは何も言うことが出来ずに黙り込む。
考え込んでいたが、ふと思い出して「そういえば」と呟く。
『...何だ?』
「1ヵ所だけまだ調べてないところがありました。そこなら、後に挙げた条件に合う方が結構いるかもしれません」
『結構いるって、そんな所を調べ忘れたのか?』
「調べ忘れたというか...私が今使っている方法では、調べることが不可能な所なんですよ」
『お前がか!?』
「そんなに驚かなくても、場所を言えば納得すると思いますよ」
『が調べられなくて納得する場所...?』
「ええ、私が調べられたのは生体データ登録がされている人たちだけです。データの登録されていない『流星街』の住民は調査できません」
『流星街か!確かにあそこなら...』
「シルバさん、行きますか?」
『当然だろ』
即座に返事をしたシルバに、は苦笑すると目の前にあるパソコンをいじり始めた。
「それなら、調べられるだけ調べるますから、ゼノさん達に説明しておいて下さいね」
『...あの状態の親父達をかよ』
「私が見つけられなかったほどの人を『流星街』に探しに行くと言えば、納得してくださるでしょうから、がんばってください」
『がんばらないと説得出来ない状態だって、分かって言ってるだろ』
「あははははははは、情報が集まったら連絡しますね。それでは」
『おい、ま『ピッ』
シルバが何か言いかけているときにわざと通話を切り、電源を切った状態にした。
電源を切った携帯をテーブルに置くと、はパソコンと小さな蜜蜂を使って黙々と情報を集めた。
が『流星街』の情報を集め出してから5日後、シルバにから連絡が届いた。
シルバはこのあいだ話の途中で電話を切ったことやその後のゼノたちの説得の大変さなどを上げてに悪態をついたが、はそれを笑って受け流した。
の様子で言うだけ無駄だと思ったシルバは大きくため息をつくと、に待ち合わせ場所と時間を聞いて自家用飛行船へと向かった。
とシルバは待ち合わせた場所から2日かけて、2人は流星街の端へとたどり着いた。
大量のごみの中をカラスたちが飛び回り、顔を布で覆った人たちが使えるごみを拾い集めている。
2人はうず高く積み上げられたごみの山を縫う様にして目的地へと向かっていく。
程なくして前方に、今まで流星街にいた人達とは異なる布を被った4人の人影が見えてくる。
2人がその人たちの前で立ち止まると、中央にいた1番小さな人物が言葉を発した。
「ようこそ『ゾルディック』、『イレブン』」
「はじめまして、議会の方ですか?」
「議会との連絡役だと思ってくれれば良い。ここで行動する上での『契約』を確認させてもらう」
「どうぞ」「ああ」
「ここにいる住民を殺害しないこと。ただし、あなた方が襲われた場合には、自衛としての攻撃は認めるが殺さないことは守ってもらう。『ゾルディック』が1人で行動する条件として、『イレブン』が我々の監視下に置かれる。『ゾルディック』は発信機を持つこと。1週間に1度、2人そろって議会に来ること。以上で間違いは無いな」
「ええ、それで間違いはありませんよ」
「...発信機は?」
「これだ。では『イレブン』は我々と共に来てもらおう」
「分かりました。シルバさん、それでは1週間後に」
「分かった」
そう言ってとシルバは反対の方向へと歩いていった。
シルバと別れ4人に取り囲まれるようにして歩いていたに、横を歩いていた人物が話しかけてきた。
「君達は何故この『契約』を受け入れたんだ?」
「何故...とは、どういう意味ですか?」
「...君達のような人物が、こちらの出す条件に同意するとは思っていなかったからだ。1人が自由に動き回れても、1人が人質だ。ここで動き回るだけにしては、制限が付き過ぎるとは考えなかったのか?」
「いえ、別に」
あっさりと言い切ったに、前を歩いていた人物が足を止めて振り返る。
それにつられてと他の3人も立ち止まった。
「何故だ」
「?、今度は何に対しての『何故』ですか?」
「あなた方が1度『契約』をしたなら、それを守るということは信用している。しかし彼の言ったように、何故そこまであっさりと条件を飲んだのかが理解出来ない。実際に議会内でも、この条件を飲んでまであなた達がここに来ると思った人はいなかったくらいだ」
「『イレブン』なら当然知ってるだろうが、俺らとマフィアの間にはそれなりにつながりがある。マフィアの連中にこれと同じ条件を出したら、かなりの譲歩を要求してくる内容だったはずだぜ」
「わしらの条件を飲んでまでここに来た理由が『探しもの』ということは聞いておる」
「しかし、本当にそのためだけにここに来たのかと、疑問を持つものは少なくない」
を取り囲んでいた人たちが代わる代わる質問をぶつけると、は不思議そうに4人を見た。
「随分と大事に捉えられてるんですねぇ」
「...ふざけてるのか?」
「いったって本気の感想ですけど」
「...我々の質問に答えてもらえないだろうか?」
「ああ、そうでしたね。この『契約』を承諾したのは、これがあなた方が最低限守るべきことして提示してきた内容だと思ったからです。私は情報屋ですから、流星街のことも調べられる範囲内で調べました。その情報と照らし合わせた結果、『契約』の内容が適当であると判断しました」
「そんなことを言われたのは、初めてだわい」
の後ろにいた小柄な男性が、声に喜色を含ませて呟いた。
の目の前にいる人が、後ろにいる男に目を向けたあとに話しかけた。
「『探しもの』については?」
「『探しもの』というか『探し人』ですね」
「どんなやつを探してるんだ?お前の様子からすると、殺す相手を探してるようには見えねぇけどよ」
「さあ?」
「さあって、探しに来たんじゃないのか?」
「探すのはシルバさんですよ」
「君は何も聞かされていないのか?」
「聞いてはいますけど、シルバさんの好みはさすがに知りませんし」
「「「「...好み?」」」」
声をそろえて言った4人に、は言っても良いものかしばし考えた。
「...(口止めされたわけじゃないから言っても良いですよね)『探し人』はシルバさんの『お嫁さん』になってくれる方ですから」
「.........ここでか?」
「だって『ゾルディック』のお嫁さんになれそうな人って、限られてくるじゃないですか」
「そのためだけにあの条件を飲んだのか?」
「そうですよ」
「何と言うか...随分と変わった坊だわい」
「どっちがですか?」
「「「「両方だ(わい)」」」」
「...まあ、いい加減に聞き慣れましたけどね。ところで、ここで立ち話したままで良いんですか?」
「......行くぞ」
1番前にいた人物が歩き出すと、と他の3人も歩き出した。
とシルバが別れてから1週間後、2人は議会の応接室で、あのときの4人と1人の女性と共にテーブルを囲んでいた。
「もう少し時間がかかると思ったんですけど、早かったですね」
「しょうがないだろう、キキョウ以外には考えられないんだから」
「おほほほほ、シルバったら皆の前でそんなことを言ったら恥ずかしいわ」
「本当のことだからな」
「おほほほほほほほ...」
「仲良しですねぇ」
「坊、こういうときは『らぶらぶ』というんだわい」
「へぇ、そうなんですか。今度からそう言うことにしますね、翁さん」
がシルバ、キキョウ、翁と話していると、今まで黙っていた3人が声をかけてきた。
「しかし、キキョウが嫁に行くとは...」
「今まで自分狙いの男達を散々返り討ちにしてきたお前がなぁ」
「あら、あんなのとシルバを一緒にして欲しく無いわ」
「...こんなところで惚気るな」
「おほほほほ、ごめんなさいね」
「嬢、反省しとるようにはさっぱり聞こえんわい」
「おほほほほほほほ...」
「あはは、『らぶらぶ』ですねぇ」
「うむ、その使い方で間違いないわい」
「ありがとうございます」
と翁、キキョウとのやり取りに、シルバ以外の3人が脱力する。
平然と話を聞いているシルバに1番背の高い男が話しかけた。
「こいつは、いつもこうなのか?」
「...ああ」
「こういう性格だから、流星街の子ども達が懐いたんだろうがな」
「...老若男女問わずといった感じだったがな」
「そういやあ、ここの女達もあいつを構い倒してたな」
「年配の方々ともよく話をしていたぞ」
「普通ああいう性格してたら、ここではカモみたいなもんなんだけどな...」
そう言って4人が達に目を向けると、はキキョウとシルバの出会いを聞いて楽しそうに笑っていた。
それを見てシルバ以外の3人が複雑そうな顔をする。
「...考えるだけ損だぞ」
小さく呟いたシルバのひと言に、3人は非常に納得して大きく頷いた。
あとがき
10,000hit記念フリー小説です。
気に入られた方はご自由にお持ち帰り下さい。
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