「雷禅、これあげるから飲んでください」
「あ?...何だ、これは?」
小さな入れ物入った錠剤を見た雷禅が訝しげに尋ねた。
「見ての通り薬ですよ」
「何の薬だって聞いてんだよ」
「栄養剤です」
「...なら、この色は何だ?俺の目を誤魔化せると思ったか?」
深紅の錠剤を手にギロリと睨んだ雷禅に、は肩をすくめて見せた。
「お前、俺に人間の血を飲ませるつもりだったな」
「まさか。誤魔化したも何も、人間の血は使ってませんよ」
「...何の血を使った?」
「私の血に決まってるでしょう。私がそこら辺の方達から血を貰うとでも思ってるんですか?」
それを聞くと、雷禅は嫌そうに顔を歪める。
「いらねえ」
「駄目です。飲みなさい」
きっぱりと言い返したに眉を顰め、ちらりと窓の外を見る。
「窓から捨てたら、簀巻きにして、口に人の肉を突っ込んで、無理やり食べさせます。もう死んでるのを探してきますから、美味しくないかもしれませんが」
「っ!!お前はっ!?」
「何ですか?自殺志願者殿?」
雷禅は殺気をこめた眼で睨みつけるが、はそれに冷ややかな目と声で答えた。
その言葉に、雷禅は目を見開いて驚いた。
「何を言っている...?」
「どんなことを決心しようとが、それを実行しようが、あなたの勝手です。けれど、妖怪たちの寿命は長くとも、不死ではありません。それなのに、食を断てばどうなるか、分かっているでしょう?」
「.........」
思わず黙りこむ雷禅に、は深いため息をついた。
「勘違いしているようですが、人を食べろとは言ってません。あなたが決めたことを覆せとも言いません」
「それなら、なぜこれを渡した?」
「人を食べないなら、他のもので代用しなさいと言っているんです」
「だが俺は...」
「食人鬼だろうが、薬くらい飲めるでしょう。私の血は人の物ではありませんが、人の物に似ています」
「俺に友を喰らえと?」
「喰らう、なんて量じゃありませんよ。せいぜい舐める程度です」
そこまで言われ、押し黙る雷禅に、は幼い子供に向けるような苦笑を顔に乗せる。
「惚れた女の生まれ変わりを待つ、なんて随分消極的じゃないですか?」
「何だと?」
「どうせなら、生まれ変わりを探し出すくらい言いなさい」
「っ!!?」
「まあ、軽く千年位かかるかもしれませんけど」
「...く、くくくっ...はっはっはっは!!」
ひょいっと肩話すくめて言ったに、雷禅が笑い声を立てる。
「千年か...随分と先の長い話だ」
「実際に生きてみるとそうでもありませんよ」
「くくっ、生き証人ってやつか...だが、それも悪くねぇな」
にやりと笑った雷禅に、も笑みを向ける。
「1日1回3錠です。念のため、多くても10錠以内にしてください」
「分かった」
「明日以降は1ヶ月分をまとめて渡します」
「ああ」
「それでは、また明日...明日はチモくんも連れてきますからね」
「ああ...薬、頼んだぜ」
「もちろんですよ」
にっこりと笑うとは雷禅の部屋を後にした。
「...千年か...そんだけありゃあ、見つかるか...いや、見つけねえとな」
押し殺した雷禅の笑い声が部屋の中で響いていた。
あとがき
原作の過去捏造です。
原作ではどうなるのか、管理人にも分からない代物です(笑)
戻る