「『鉄』の一族はねジャポンの表を2割、裏を6割支配してるかなり陰湿で暗くて暗くて根暗で湿っぽくて執念深い一族よ」
自分の姓とアサヒの姓が違うことに疑問を持ったの質問にアサヒがそう答えると、はきょとんとしながら首を傾げた。
その仕草を見てアサヒがくすくす笑うと、まだ人の内心までは読めないはさらに不思議そうに首の傾きが大きくした。
「私にとって『鉄』はね、正直言うと好きな名前じゃないわ。いえ、名前だけじゃないわね。その在り方そのものも嫌いだわ」
「嫌...い?」
の目が驚いて限界まで丸くなる。
食べ物の好き嫌いもなく、虫や爬虫類等も平気なアサヒが初めて口にした嫌いという言葉は、思いのほかに衝撃を与えたようだ。
「ええ、嫌いなの。たとえそれが血の繋がった親や兄弟、親戚連中だとしてもね」
「人は血の繋がりで家族になるんじゃないんですか?」
「あら、そんなことないわよ。夫婦で血の繋がりがあるっていうのは珍しくはないけど、全体から言ったら少数よ。それに養子とかもあるし、私とも血の繋がりはないけど家族でしょ?」
「...はい」
当たり前のように自分を家族として捉えてくれているアサヒに、は喜びで頬を染めながら頷いた。
そんなを見てアサヒも微笑ましそうに目を細めて笑う。
「ちょっと話がずれたわね。『鉄』はね、人工的に特質系の能力者を作るのよ。一つの国を自分たちの手の中に治めるためにね」
「特質を...作る?」
「そう、作るのよ。特質になる可能性が最も高いのは選ばれた血統と特殊な環境。血統に関しては昔みたいな近親婚ね。あの中じゃ親や兄弟、祖父母と夫婦なんて珍しくもなかったわね」
アサヒは非常に嫌そうな顔で吐き捨てる。
「特殊な環境はね、わざとそういう環境を作るのよ。一族総出でね」
「わざと?」
「たとえば誰にも気づかれずに暗殺等の仕事をする人間が欲しいとなったら、5歳くらいまで普通に育てた後は見かけたら罵倒と暴力で心も体もめちゃくちゃにするのよ」
「...全員が、ですか?」
「大人がすることを、子供が真似しない訳ないわ。自分より幼い子にまで心を、体を傷つけられて平気な子供なんて早々いないわ」
「それでその子は理不尽な暴力を振るわれないように、誰にも気づかれない念を作るですか?かなり都合のいい話だと思いますが」
「もちろん都合が良すぎるわ。でもそうなるように刷り込みともいえる教育をしてるのよ。相手は10年も生きていない子供だもの。人を操り陥れることになれた老獪な大人には敵わないわ」
「アサヒさんも、そうでしたか?」
不安そうなに、アサヒは不敵な笑みを見せた。
「私は血統ゆえに特質ではあるけど、言いなりになるような能力になんかしなかったわ。でもね、子供の頃あの日記を読んでなかったら、私は私の嫌いな『鉄』になっていたわ」
「日記?」
「書いた人に直接会ったことはないわ。知ることができたのは日記の中身と、挟んであった1枚の写真、最後に書いてあった名前だけ。でも私が知るなかで一番キレイな人よ」
「そんなにキレイな人だったんですか?」
「ええ。でも世界中を探せばその人よりキレイな顔の人なんてたくさんいるわよ」
「え?」
一番キレイと言ったのにその人よりキレイな人がたくさんいるという。
その矛盾には困惑する。
「その人よりキレイな顔の人なんてたくさんいるわ。でも、その人以上にキレイな生き様を残せた人なんてきっといないわ」
「キレイな生き様ですか?」
「そうよ。呪い呪われている『鉄』の中で、異端と言われても折れることなく真っ直ぐに人で在り続けた人。殺し殺され争うより、助け合い支えあい話し合う方がずっと簡単と言いきれる人。好きな人と助け合い支えあい愛し合い、たくさんの家族に囲まれて笑って逝った人。こんなキレイな生き様を私は他に知らないわ」
「それがキレイな生き様ですか?」
「私にとってはね。そういう風に生きたいという目標でもあるわ」
をまっすぐに見つめながら言うその様は、目指す者への誇りを伺わせた。
「その人のお名前は、もしかして...」
「ふふ、察しが好いわね。その人はほとんど血の繋がりなんかないような遠縁で、髪も目も私と違って夜のような色」
「そして生き様がキレイな美人さん?」
「名前は。私の目標で、私の子供に目指してほしい目標よ」
あとがき
ず〜っと頭の中で温めつづけたネタをここで(笑)
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